「廊下の影と忘れられた罪」

修はある寒い冬の夜、自宅で退屈していた。
時刻はすでに深夜を過ぎ、静寂に包まれた家の中では、壁の時計の音だけが響いている。
外は雪が静かに降り積もり、路地も見えないほどの白い世界になっていた。
彼はこうした真夜中に何をするかと考えていると、ふと廊下の方からかすかな音が聞こえてきた。

「誰かいるのか?」修は身を乗り出し、耳を澄ませた。
音は廊下の奥から響いてくるようだ。
普段は静かな家だが、このところ、どうも異様な気配を感じていた。
修は恐る恐る立ち上がり、ゆっくりと廊下へと足を運んだ。

彼が廊下の真ん中まで来ると、突然、戸が揺れた。
修は目を疑った。
廊下の先にある戸はいつも締まっているはずなのに、何かの力が働いているように見えた。
慌てて足を止め、戸の方を見つめた。
その瞬間、廊下の先から薄暗い影が現れ、すぐそばの戸の前に立つように見えた。

「誰だ?」修は声をかけたが、返事はなかった。
影はゆっくりと動き出し、戸に触れると、まるで誰かがそれを開けるように感じた。
修の心臓は高鳴り、恐怖と興味が交錯する。
その影は、顔を少しだけこちらに向け、瞬間的に周囲の空気が重たくなるのを感じた。

「れ……」と、影の口が動いたように見えた。
修はその声を聞き逃さないように、耳を澄ませる。
しかし、次の瞬間、影は廊下の奥へと消えてしまった。
恐ろしさが胸を締め付けるが、修はその影が一体何なのかを確かめたくてたまらなかった。

彼は慎重に廊下を進み、戸の前に立った。
恐る恐るノブに手をかけて開けてみると、中は暗い空間が広がっていた。
薄明かりの中、何かが彼を見つめ返しているような感覚がした。
修は恐怖を振り払い、さらに中に入ることにした。

廊の先には無数の戸が並んでいて、どれも開けることができそうだった。
どの戸も独特な雰囲気を纏っており、特に奥の扉が気になった。
そこには「発」という文字が彫られており、何かが起こる予感がした。

彼はその戸に近づき、勇気を振り絞ってノブを回した。
瞬間、戸はゆっくりと開き、内部の光景に驚愕した。
そこには真っ白な世界が広がっており、先ほどの影が立っていた。
修が目を凝らして見ると、それは自分自身の姿だった。

「修……」その影は彼の名を呼んだ。

彼は怯えながらも、影に近づいていった。
すると、影は言った。
「私はお前が忘れた過去だ。お前の心の奥底に眠っている怨念と向き合わなければならない。」

修は混乱した。
自分は何を思い出せばいいのだろうか。
それから影は「れ」とだけ繰り返し言い続けた。
彼はその言葉の意味を考えた。
「れ……怨……」

彼は心にある過去の罪と向き合わなければならなかった。
修は一歩後退り、我に返ると走り去ろうとしたが、影は鋭い目で彼を見つめた。
「逃げるな、修。向き合うのだ、お前の心の中にあるものに。」

修は恐れながらも心の中を巡らせ、誰かを傷つけたこと、忘れ去っていた過去の出来事を思い出した。
その瞬間、影は徐々に形を変え、修自身の心情となって彼の目の前に立った。
彼は深呼吸し、影に向かって声を発した。

「ごめん、心の闇を忘れていた。もう逃げない。」

修は涙を流しながら、自分の心を解放した。
影はゆっくりと薄れていき、最後には彼を見つめたまま消えていった。

その日以来、廊下の戸は静まり返り、修は自分の心の奥にあった恐れと向き合うことができた。
彼はその体験を忘れず、今度こそ、真実と調和を求めて生きる決意を新たにした。

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