「廃舎の囁き」

マサルは高校の夏休みを利用して、友人たちと共に地元の廃舎に心霊スポット探検に出かけることにした。
古びた舎は、かつては学校として使われていたが、今では長い間、忘れ去られた存在となっている。
噂によれば、そこには不気味な声が響き渡り、夜な夜な何者かが囁くという。

彼らは午後の遅い時間に廃舎へと足を運んだ。
お互いの緊張感を楽しいものに変えるため、初めは冗談を言い合いながら進んでいたが、舎の前に立つと、その雰囲気に圧倒されてしまった。
マサルは一歩を踏み出し、扉を押し開ける。
ギシッと不気味な音を立て、重たい扉が開いた。

中へ入ると、暗闇が彼らを包み込んでいった。
かすかな光だけで照らされた教室の中には、壊れた机や椅子が散乱し、ちらほらと蜘蛛の巣が張り巡らされている。
友人たちは「ここが噂の場所か」とざわつきながらも、内心の恐怖を抱えていた。

「さて、どの部屋を探そうか?」と問うと、タケシが「第3教室がヤバいって聞いたぜ」と答えた。
他の仲間たちもそれに同意し、彼らは心を決めてその部屋に向かうことにした。

第3教室に辿り着くと、そこは何か重苦しい雰囲気に包まれているようだった。
マサルはふと、窓の外に見える景色が不自然に歪んで見えることに気づいた。
「おい、外の景色が変だぞ」と彼は言ったが、友人たちはそのことに気を取られず、教室の棚を探り始めた。

その時、突然、耳元でか細い声が聞こえてきた。
「助けて…」その声は、誰かに呼びかけられているようだった。
マサルは驚いて振り返ったが、誰もいない。
ただの静寂が広がっていた。
「みんな、今の聞いたか?」彼は声を上げたが、友人たちは「またお前の思い込みか」と苦笑いし、気にしない様子だった。

その場を離れることにしたマサルは、ふと背後を振り返ると、その教室の壁に何か不気味な影が映っているのを見た。
「ちょっと、あれを見て!」皆が振り返ると、影はすぐに消えた。
「何だったんだ?」疑問に思いながらも、彼は何かの存在を感じ取っていた。

いっそう不安な気持ちが募ってきたマサルは、探検を続けることを決め、心の奥の恐怖を無視して代わりに興奮を抱いていた。
何か見つかるはずだと期待する一方、虚無感も抱えていたその時、壁の一部が崩れてしまい、マサルはバランスを崩して倒れそうになった。

すると、目の前に浮かび上がったのは、白い服をまとった少女の姿だった。
彼女は無表情で、ゆっくりとマサルらに近づいてくる。
「私は助けが必要…」と言った瞬間、彼は恐れに満ちた心を抱えて叫んだ。
「逃げろ!」

仲間たちはその言葉に反応し、慌てて廃舎を飛び出した。
マサルは少女の視線を背中に感じながらも、何とか仲間たちと共に外へと駆け出すことができた。
全員が廃舎の外に出た時、彼は振り返った。
舎は静まり返っていた。

「一体、今のは何だったんだ…」息を切らしながらマサルは呟いた。
誰も返事をせず、ただそれぞれが深い沈黙に包まれている。
街の明かりが少しずつ近づいてくる中、彼の心にはあの少女の言葉が深く刻まれていた。
彼はあの日、廃舎で何を探し、何を見つけたのか思い返すことになるだろう。
そして、彼の中の何かが変わってしまったことを感じていた。

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