夜が深まり、静まり返った町の外れにある古びたの廃校。
この場所には、かつて元気に遊ぶ子供たちの声が響いていた。
だが、今はその音は消え、ただの廃墟と化していた。
町の噂では、その学校には「廻る未練」が宿っていると言われた。
しかし、好奇心旺盛な翔太は、この噂を信じず、友人たちを誘って夜の学校へ肝試しに出かけることにした。
「どうせ、何もないよ」と翔太が言うと、友人たちは不安を感じながらも、彼に乗せられて廃校の門をくぐった。
廊下は不気味な静けさに満ち、灯りの消えた教室が並んでいる。
友人の明美は「やっぱり、帰りたい」と言ったが、翔太は笑いながら「まだ何も始まってないだろう」と言い、先に進んだ。
三人が廊下を進むと、突然、教室のドアがバンと開いた。
驚いて振り返ったが、誰もいなかった。
その瞬間、彼女たちの背筋には寒気が走る。
「ここにいるのは私たちだけだよな?」と友人の健二は言った。
翔太は「おそらく風だよ」と言い、無理に笑いを作るが、その笑顔はどこか不自然だった。
そのとき、明美が教室の中から奇妙な音を耳にした。
「ねえ、何か聞こえない?」と彼女が言うと、翔太と健二もその音に耳を傾けた。
低い声で「おいで…」と囁く声が、遠くから聞こえてくる。
翔太は興味を持ち、「行ってみよう」と言った。
三人は教室に入ると、そこには古びた黒板があり、何やら書かれていた。
見ると、血のような赤い字で「廻る未練」の文字が。
明美は恐怖を感じ、「これ、やめようよ」とつぶやいたが、翔太は「まだ、経過観察しよう」と意に介さなかった。
その後、廊下を歩くたびに、何かが彼らの後ろを追いかけてくる気配がした。
時折、冷たい風が吹き抜け、彼らは振り向くたびに視線を感じた。
まるで、何かに取り巻かれている感覚だった。
「これ、本当にまずくないか?」と健二が言うが、翔太はまだ半信半疑。
「理屈なんか無視しよう。楽しもうよ」と彼は明るく振る舞った。
しかし、その言葉が響く中で、再び背筋に寒気が走った。
教室の窓が一斉に揺れ、教室の空気が重たくなった。
更に不気味なことに、明美が突然声を上げた。
「見て!後ろにいる!」と指差すと、消えかけた姿が彼女たちの後ろに立っていた。
真っ白な顔、長く伸びた黒髪、目はどこか虚ろで、彼女たちの存在に気付いていない様子だった。
翔太は恐怖に駆られ、「逃げろ!」と叫び、三人は一斉に廊下を走りだした。
その時、不意に明美の足がつまずき、グラリと倒れ込んだ。
翔太と健二は振り返り、「明美、早く!」と叫んだが彼女は立ち上がれない。
「早く、行け!」と言われても、その声が自分の耳に届かないかのようだった。
翔太は迷わず明美を助けに戻ろうとしたが、そこには明美の姿はもうなかった。
彼女はまるで「廻」に飲み込まれてしまったかのように、消えてしまったのだ。
健二と共に校舎を飛び出た翔太は、深い闇に包まれた外で、ただ無言のまま震えていた。
学校の正体は、その「廻る未練」に由来したものだった。
かつてこの学校で過ごした子供たち、彼らの欲望が、今もこの閉ざされた空間でうずくまっている。
避けられない運命の中、翔太は何もできずに佇むしかなかった。
未練の「輪」は、確実に彼を魅了していたからだ。