「幽霊の助手席」

夜の高速道路を走る車には、佐藤健一という青年がいた。
彼は仕事帰り、疲れた体を休めるために、早めに家に帰ろうとしていた。
道は静まり返り、ほとんど車も通っていない。
そんな中、彼の気分を和らげる音楽が流れ続けていた。

しかし、時刻が深夜に差し掛かると、突然、音楽が途切れた。
健一は驚いてスピーカーを確認したが、異常はなかった。
むしろ、車内は不気味な静けさに包まれていった。
さらに、運転中の彼は、どうしようもない不安感に襲われる。
何かが後ろから彼を見つめているような気配を感じた。

不安に駆られた健一は、後部座席を振り返ったが、何も見当たらない。
ただ静寂が漂っている。
頭を振り払うように再び前を見ると、前方に一台の古びた車が現れた。
それは、すぐにでも消え去ってしまいそうな、忘れ去られたような存在だった。
健一は無意識にその車を追い越そうとした。

追い越した途端、彼の車はまるで何かに引っ張られたかのように、急に速度が上がった。
ブレーキを踏むも効果はない。
どうしても止まらなかった。
健一は心臓がバクバク鳴るのを感じながら、恐る恐るスピードメーターを確認した。
なんと、時速が一気に140kmを超えている。

「なんでこんなことに…」彼は恐れを抱きつつも、何とか車を運転し続けた。
周囲の景色は目まぐるしく流れていく。
だがその瞬間、助手席の窓からかすかに声が聞こえた。
「助けて…」それは若い女性の声だった。
健一は驚いて窓の外を見たが、誰もいない。

再び背筋が凍る思いを味わった健一は、冷静になろうと深呼吸を試みた。
しかし、その時、彼の目の端に何かが動いたのを感じた。
ハンドルを握る手に力が入る。
恐る恐る自分の後ろを見返すと、そこには一人の女性が居た。
彼女はぼんやりとした表情で、目を大きく見開いていた。
しかし、彼女の顔は青白く、首から下はまるで消えているかのようだった。
恐ろしく、彼は叫び声を上げた。

「誰か…誰か助けてくれ!」その瞬間、車は一瞬静止したかのように感じた。
女性の顔が彼に向かって大きく口を開けた。
その言葉は明確に彼の耳に届いた。
「永遠に…一緒にいる。」その瞬間、健一の意識が遠ざかっていく。

次の瞬間、車は再び動き出し、猛スピードで走り続けた。
彼は脳裏に女性の顔を焼き付けながらも、自分の意識が薄れていく感覚を味わった。
外の景色は流れるが、自分はまるで別の次元に引き込まれているかのようだった。

結局、彼はそのまま高速道路で行きつく先を知らず、最後の瞬間にかけて車は止まらなかった。
朝が訪れると、健一の車は夜の高速道路の真ん中で止まっていたが、彼の姿はどこにも見当たらなかった。
ただ、車の中に残された一枚の名刺には「助けを求める者」という文字だけが残されていた。

その後、健一は行方不明のままとなり、誰も彼を見つけることはできなかった。
ただ、彼の話を聞いた者たちは、彼の車が今もなお、夜の高速道路を永遠に走り続けていると噂を語り合うのだった。
その姿を見た者は一人として居ないが、その声だけは、夜の寒気と共に漂っている。

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