「帰れぬ道の霊」

ある寒い冬の夜、田舎町に住む、志田陽介という若者がいた。
彼は大学進学のために家を出て、都会での生活を始めていた。
家族や友人たちと少し距離を置くことになったが、彼は自分の将来のためだと自分を納得させた。
しかし、心のどこかで彼は、故郷とそこでの思い出を忘れたくないという、悔しさを抱えていた。

ある日、陽介は友人と一緒にキャンプをすることになり、故郷の近くの山に向かうことにした。
彼は懐かしい風景や、子ども時代に遊んだ場所を思い出しながら、久しぶりに見る自然に心を躍らせた。
しかし、山に入るにつれ、日が暮れ、暗くなるにつれて、彼は不安を感じ始めていた。

キャンプの準備をしていると、友人の一人が言った。
「この辺りには、昔から言い伝えられている怖い話があるんだ。心霊スポットとしても有名だし、遭遇した人の話を聞くと、みんなが口を揃えて「あの場所は行くべきじゃない」って言うんだ。
」彼の言葉に興味を持った陽介は、すぐにその場所を探すことにした。
友人たちも少し怖がりながらも、陽介のリーダーシップに従ってついていくことになった。

薄暗い森の中、陽介たちはその場所に近づいていく。
心拍数が上がり、胸の奥に隠していた悔しさが再び彼を襲った。
自分の嫌な感情を振り払うかのように、陽介はただ前へ進んだ。
ついに、その場所にたどり着くと、そこには古びた神社の廃墟があった。
周りを取り囲む樹木は奇妙に歪んでおり、月明かりに照らされて影が揺れていた。

陽介は一瞬、虚無感に襲われた。
何かが彼をここに呼び寄せたような気がした。
しかし、友人たちには何も感じてほしくなかった。
彼は自分の心の声を押し殺し、思わず笑顔を作る。
「こんなところ、ただの噂だよ。何も起こらないって。」

しかし、何かが始まった。
その瞬間、陽介の心の中に一抹の恐怖がひろがった。
友人たちが神社の中に入ると、異常な寒気が彼を襲った。
そこには、かつてこの神社を守っていたという霊が住んでいるという噂があった。
その霊は、境内に入った人に、過去の後悔を突き付けるという。

陽介は急に、不安定な気持ちになった。
神社の奥から、誰かの声が聞こえた。
「帰ってれ…やめろ…戻ってこい…」無数の声が耳に響き、不気味な空気が彼を包んだ。
それは彼が故郷を離れたことに心のどこかで後悔していたことが、具現化したようだった。
陽介は思わず立ち尽くしてしまい、友人たちの声も遠くで消えていくのを感じた。

彼の心は過去と向き合わざるを得なくなった。
愛する人々との時間、温かい家庭、幼少期の夢。
全てを自らの選択で捨てたこと。
悔しさが押し寄せ、心の中を埋まる。
逃げ出すことさえできなかった。

彼はそのまま固まった。
陽介の心に響く声はさらに強くなり、彼の過去からの囁きが耳に残っていた。
「お前は一人だ。戻ってこい。」不意に、自分がどれだけ大切なものを失ったのか気づいた瞬間、思わず涙がこぼれた。

その時、彼は目を覚ました。
友人たちが彼を呼び戻そうとしていた。
「陽介!大丈夫?」彼は自分の選択を胸に抱き、再び故郷へ戻ることを心に誓った。
その夜、彼は一つの大きな後悔を抱えながらも、故郷の光に向けて歩き始めた。

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