町から離れた静かな山の中腹に、古びた寺が佇んでいた。
その寺は、人々に忘れ去られたかのように手入れがされておらず、苔むした石畳や傾きかけた本堂が、どこか不気味な雰囲気を醸し出していた。
噂では、その寺にはかつて「牲」と呼ばれる存在が封じ込められていると言われていた。
彼を見た者は、その生気を奪われるか、あるいは禁忌の世界に引き込まれるのだという。
ある夜、大学生の隆史は友人と共に肝試しをしようと、この寺を訪れた。
彼らは、好奇心と興奮にかられて山道を進み、ようやく寺の前に辿り着く。
懐中電灯の光が、寺の暗闇を照らし出すと、彼らは思わず背筋を凍らせた。
「本当に来てしまったな」と友人の健二がつぶやいた。
寺に入ると、その空気はひんやりとしており、静寂が支配していた。
隆史は懐中電灯を片手に、中を探索することに決めた。
「何か面白いことがあるかもしれないから、先に行くよ!」と彼は言い残し、独りで本堂の奥へと進んだ。
静まり返った寺の中、隆史は一つの失われた仏像を見つけた。
その姿は形が崩れており、どこかシャープで不気味な印象を与えた。
近づくと、その仏像から不思議な気配を感じ、心がざわついた。
彼の脳裏には、「生命を奪うもの」のイメージが浮かんだ。
その時、隆史の目の前に薄暗い影が現れた。
「帰れ」と低い声が響く。
隆史は思わず驚いて後退した。
しかし、影は消えたが、影の存在が彼の心に一層の不安を植え付けた。
「ここはやばいところなんだ」と彼は思った。
急いで友人たちの元に戻ろうとしたが、寺の中は迷路のように複雑で、方向感覚を失ってしまった。
彼は叫びながら、元の場所に戻ろうとするが、どこをどう歩いても同じ場所に戻る。
「健二、どこにいる?」声をあげても、返事は返ってこない。
その時、隆史はふとあることを思い出した。
「健二たちも、同じように囚われてしまったのだろうか?」心の中に恐怖が沸き起こり、急いで元へ戻ることを決意した。
焦りながらも、覚えのある方向へ足を進めるが、周りの景色はどんどん変わり、不気味な静けさが彼を包む。
「何かが、私を引き寄せている」と感じ始めた隆史は、背後に冷たい視線を感じた。
「生け贄を求める者」の存在が、彼を探している。
生気を吸い取られているような感覚に耐えがたくなった。
やがて、隆史はようやく本堂に戻り、仲間の姿を見つけた。
だが、その彼らの様子はおかしかった。
目が虚ろで、まるで魂が抜けてしまったかのように立ち尽くしていた。
「助けてくれ…」とその中の一人が呟いた瞬間、隆史の体を不気味な影が包み込む。
「帰れ」という声が、再び彼の耳元で囁かれた。
潘朝の罠から逃れられないと思った瞬間、隆史は思い切って本堂の出口へと走り出す。
後ろから迫る影の気配、友人たちの悲鳴が次第に遠くなる中、彼は出口にたどり着き、外へ飛び出した。
振り返ると、寺の全景が見えた。
その瞬間、隆史は感じた。
「終わりにさせるわけにはいかない。彼らを救わなくては」と。
だが、気がつけば寺の姿は、薄暗い霧の中に溶け込み、再び姿を消してしまっていた。
隆史はただその場に立ち尽くすしかなかった。
「形」は消えてしまったが、彼の心には恐れが残り、いつか戻る日を夢見て新たな影が忍び寄ってくるのを感じた。