夜の神社は静まり返り、月明かりが木々の隙間から漏れこむ。
拝殿の裏手には、地元の人々から「動く神像」として忌み嫌われている不気味な神像があった。
この神像は、決してなにかしらの儀式が行われていない限り、決して動かない。
だが、一度触れた者には恐怖の記憶を残し、時を経るにつれてその恐怖は色あせることのないものとなる。
ある晩、青年の健二は友人の美佳、則夫を誘って肝試しに神社に足を運んだ。
彼らは昼間の賑わいとは一転した影の世界に身を投じることになった。
「ここが噂の神社か。あの神像、本当に動くのかな?」健二が言うと、美佳は微笑みながら「勇気があるじゃない」と返した。
則夫は「実際に見たらどうするんだ?」と少し不安げに言ったが、好奇心に駆られて一歩ずつ進んでいった。
静けさの中、神社の中を進むにつれて、彼らの背後で、葉音がかすかに聞こえた。
三人は互いに顔を見合わせためらったが、一同で声を揃えて神像の元へ向かうことにした。
月明かりの下、石畳の道を進むにつれ、不安が募っていく。
ついに神像の前に立ち尽くした彼らは、その形を真正面から見ることとなる。
その神像は、古びた石でできており、まるで何かを見つめているかのような眼差しを持っていた。
美佳が「お守りを貰いましょうよ」と言い出し、手を伸ばしたその時、健二が不意に神像と目が合った。
「えっ! 動いてる……?」健二の声は驚きに満ち、周囲の空気が凍りつく。
神像の手が微かに動いたように見えたのだ。
「そんなわけないだろう」と則夫は否定し、怪しい神話は単なる伝説にすぎないと彼をなだめた。
しかし、健二は神像に引き寄せられるような感覚を覚え、恐怖を越えた何かに魅了された。
「私が見つめると、動くんだ……!」そうつぶやいた瞬間、神像の目がわずかに光を帯びた。
三人は一斉に後退った。
その瞬間、周囲の風が強まり、一陣の風が神社を襲った。
急に神像がガシャンと動いたのだ。
その瞬間、神社全体が揺れ、木々がざわめき出した。
美佳が恐怖の声を上げると、則夫は「逃げろ!」と叫び、彼女の手を引いた。
健二はアドレナリンが湧き上がる中、ただ神像だけを見つめ続けていた。
神像は次第にその位置を変え、少しずつ近づいてきた。
健二は自分が何かを知らなければならない気がし、思わず前に出た。
「お前は何者なんだ?」口から出たのはいつの間にか言葉だった。
神像の口がわずかに動き、風の中で「帰れ」という声が聞こえた。
その瞬間、全身に震えが走り、目の前が真っ暗になった。
彼は夢から覚めるように、再び神社の前に立っていた。
その場にいたはずの美佳と則夫は消え、不安と恐れが胸に迫った。
「神像の声は、本当だったのか?」そんな思いが頭を駆け巡る。
彼が振り返ると、神社は何も変わらず存在しているが、彼しかそこにいないことを実感した。
再び神像と向き合ったとき、そこにはただの石像があり、彼への視線は感じられなかった。
しかし、心の奥底にはあの冷たい声が響きわたっていた。
「忘れてしまうんだな。」彼は神社の周りを一周し終えたが、何もかもが変わってしまっているように思えた。
そして、自らの意思で再びその場所を訪れることは二度とできないと、深く心に刻まれたのだった。