昔々、ある小さな村に、鼎(かなえ)という若者が住んでいました。
彼は自らを「師」と名乗り、村の人々から信頼されていました。
特に、しっかりとした教えをもとに得た知識をもとに、村の子どもたちを導くことに情熱を注いでいました。
しかし、彼には他の人には言えない一つの本当の姿が表には見えませんでした。
それは、己の中に潜む闇の影でした。
ある冬の晩、鼎はひとり、古ぼけた書物が並ぶ図書館に向かっていました。
そこには、不思議な現象があるという噂が語られている場所でした。
先代の師が遺した書物の中に、「己の姿を映し出す書」というものがあり、謎めいた呪いが逸話と共に語られているものでした。
彼はその書が本物かどうかを確かめるために、その場所に足を運ぶことを決意しました。
夜が深まるにつれ、図書館の扉を開けた瞬間、冷たい空気が彼を包み込むように感じました。
ほの暗い空間に立つともなく立っている無数の書物が、長い歴史の重みを物語っていました。
彼は灯りもなく、ただ自分の呼吸音だけが静寂をさらに深めている中で、「己の姿を映し出す書」を探し始めました。
時間が経つに連れ、彼は本棚の奥の方に、ほこりを被った一冊の古い書を見つけました。
カバーには「呪い」とだけ記されているその書に、彼の心は弾みました。
興奮に満ちた手でその本を開くと、そこには彼が思い描いていた通りの内容が書かれていました。
「この書を読み、己を見つめる者が、真実の姿を知ることができる。」という一文が彼を一際熱くさせました。
鼎は書に書かれた呪文を声に出して唱えました。
すると、空気が震えるように感じ、書物のページは自動的にめくれました。
その瞬間、目の前に彼自身の姿が映し出されたのです。
しかし、その姿は彼の思い描く整った姿ではなく、醜く変化した、まるで暗い闇に飲まれた生き物でした。
その瞬間、己の内に潜む闇が彼の心の奥深くに呼応して、彼は恐怖に駆られました。
呪いは彼の無意識を刺激し、彼は知っているはずの自分がこんな姿になるという現実を受け入れることができなかったのです。
「いかん!これは本当ではない!」と彼は叫びましたが、その叫び声は書物に吸い込まれて消えてしまいました。
その後、彼は次第に周囲の現象を気にしなくなり、毎晩、書物の前に座り続けました。
自分の姿が映るのを恐れながらも、再度その目にしようとする欲望が抑えきれず。
ただ、夜毎、彼の中に潜む闇はさらに彼を支配していきました。
彼は村の人々から距離を置くようになり、孤立していく一方でした。
他者との交流を拒む付けとして、その闇は彼の心をさらに蝕みました。
彼の口から出た言葉はただの囁きとなり、村人たちには気配すら感じられなくなったのです。
やがて、村には彼の姿を見かけることは無くなり、伝説のようにその噂が立つようになりました。
数ヶ月後、村の誰かが図書館に入ると、鼎は静かに一冊の書の前に座っており、薄暗い目で自らを見つめ続けていました。
周囲には何も言わずにただ唯一の存在として、己の恐怖と向き合っているようでした。
しかし、その姿は彼自身の中の呪いに飲み込まれてしまったかのように、かつての教えを全て失ったただの影として存在するばかりだったのです。
村は彼の影となった存在を語り、その話を子供たちに伝えることとなりました。
「己を見つめ過ぎると、呪いに取り込まれてしまう」と。
定期的にその図書館に訪れる者たちの間で、恐ろしい噂が生まれるようになり、真実を探し続ける中で、果たして己を持つ者は消えてしまうのだという教訓が形成されることとなったのでした。