「己の影が宿る廃屋」

静かな村の外れに、長い間廃屋として放置されていた古い屋敷があった。
その家は村人たちにとって忌避される場所であり、誰も近づこうとはしなかった。
そこで起きる奇怪な現象に対する恐れからだった。
そして、その廃屋には一つの言い伝えがあった。
それは、“己を知る者のみが、その屋敷に残された真実を見ることができる”というものであった。

村には、圭介という若者が住んでいた。
彼は、普通の生活を送る傍ら、自らの人生に迷いを感じていた。
何を求め、どこへ向かえば良いのか、心の中には常に空虚さが渦巻いていた。
圭介は、そんな自分を変えたいと思いながらも、何もできない日々が続いていた。

ある晩、圭介は思い切って廃屋に足を運ぶことにした。
噂では、屋敷の中に秘められた真実を知ることで、己自身を見つめ直せるのではないかという期待があった。
月明かりの中、圭介は廃屋の前に立ち尽くしていた。
周囲は静まり返り、彼の鼓動だけが耳に響いていた。

恐る恐る扉を開けて中に入ると、古びた家具が薄暗い室内に並んでいた。
埃まみれの床を踏みしめながら先へ進むと、壁には様々な絵が描かれていた。
それは戦の様子や、様々な感情が表現された絵だった。
そして、その中に圭介に似た若者の姿が描かれていることに気づいた。
彼は自らの姿を見つけ、不思議な思いを抱いた。

その時、廃屋の中で異変が起きた。
空気が澱み、どこか遠くから戦の悲鳴が聞こえてくる。
圭介はその声に引き寄せられ、耳を澄ませた。
声の主は、彼自身の心の中から湧き上がってくるものだった。
己の中に潜む恐れ、怒り、悲しみ。
それらが、戦を繰り返す声として形を成していたのだ。

圭介は思わず後退りしたが、留まることはできなかった。
逃げ出すこともできず、彼はただ立ち尽くすしかなかった。
そのとき、一つの影が彼の背後に現れた。
振り返ると、白装束の女性が立っていた。
彼女は無表情だったが、その目には冷たい光が宿っていた。

「ここで己を知るのは簡単なことではない」と彼女は言った。
「我が身に宿る戦の執念に触れることができた者しか、真実を知ることはできないのだから。」

圭介は恐れと混乱の中で、言葉を発することができなかった。
彼は自らの内面に触れ、逃げることができない現実を突きつけられる。
改めて心の声に向き合う時が来たのだ。
戦の執念は、彼を囚え続け、己を見つめさせるために存在していたのだ。

圭介は深呼吸をし、自らの恐れを直視する決意を固めた。
その瞬間、周囲の景色が変幻し、彼は戦場の真っ只中に立っていた。
自分が抱えていた多くの感情が渦巻き、戦うために進むしかないことを感じた。
しかし、そこには無数の亡者たちが待ち受けており、戦の恐怖が彼の心を蝕んでいく。

意識が混濁する中、圭介は自らの心の声が呼びかけるのを感じた。
「己の力を受け入れ、自らを戦いの中で知ることができるだろうか?」

圭介は力強く頷き、男たちと共に戦った。
その結果、彼は自らの内なる闘争を克服し、自分を取り戻した。
その瞬間、周囲の景色は元の廃屋に戻り、白装束の女性も微笑を浮かべた。

「見たでしょう。己を知るということは、戦を終わらせる力を持つことでもあるのです。」

圭介はその言葉に感謝し、彼女に向かって深くお辞儀をした。
そして、彼は真実を知り、戦いを終わらせた自らの力を実感した。
その夜、圭介は廃屋を後にし、新たな決意を胸に抱いて村へと帰った。

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