ある夜、涼しい風が吹く古びた村の外れに、囲炉裏のそばでかすかな声を聞くことができた。
その声は、かつての民たちが同じように集まり、語り合っていた場所だった。
村の住人、真理子は、代々この村に住む巫女の子孫として生まれ育った。
彼女はその場所で、長老たちの語る怖い話を聞き、自身もまた語り手になりたいと夢見ていた。
その夜、真理子は友人の和也と共に、村の古い神社へ足を運んだ。
神社は木々に囲まれ、月明かりが薄く照らす隙間から、かすかな光を放っていた。
彼らは、巫女としての自分の役割を果たすため、そして来るべき村の祭りに向けて、神様への祈りを捧げることにした。
「真理子、あの時の話、まだ覚えてるか?あの村の伝説。」和也が尋ねた。
彼は子供の頃から、伝説や怪談が大好きだった。
「ええ、もちろん。確か、神社の近くに住んでいた巫女が、悪霊を鎮めるために身を捧げた話よね。」真理子が答えた。
そして、和也はそれに付け加わるように言った。
「その巫女が行った儀式のせいで、彼女の魂は永遠にこの場所を彷徨い続けているというのがその話の核心だ。」
真理子は不安を覚えながらも、信じることにした。
「でも、私たちが祈りを捧げれば、彼女の魂も安らかになれるわ。」
彼女は再び祭壇に向かい、心の中で祈りを捧げた。
その瞬間、静寂な空気が一変し、周囲の気配が変わった。
暗闇の中から、一瞬のひらめきのような光が放たれ、次第にその光が具現化していく。
その光の中に、かつての巫女の姿が浮かび上がった。
「真理子…和也…あなたたちが私を呼んだのですか?」死者の声は柔らかく、しかしその中には哀しみが漂っていた。
「あなたは…どなたですか?」二人は同時に声を上げた。
その巫女はゆっくりと皆に向き直り、語りかけた。
「私の名は美和。長い間、この神社を守ってきた。しかし、私の役割は終わったはずなのに、未だにこの地を離れられぬのです。なぜなら、私が行った儀式が、未解決のまま封じられたから…」
彼女の声が消えると、物寂しい風が吹き抜けた。
真理子と和也は互いに視線を交わしながら、恐れながらも深い興味を掻き立てられていた。
「どうすれば、あなたの魂を救えるのですか?」真理子は思い切って尋ねた。
美和は微笑むが、その表情にはどこか影があった。
「私の身に何が起こったのか、真実を明らかにするため、あなたたちが私の過去を追体験しなければなりません。」
二人はその言葉に打たれ、同時に覚悟を決めた。
そして、彼女の指示に従い、村の山奥にあるという、美和がかつて会ったという樹木へと向かった。
その樹は、忌み嫌われる者たちが集まる場所だと語り継がれていた。
霧がたちこめる山を登る中、真理子は自らの想念が次第に美和の存在と融合していくのを感じた。
彼女の記憶の片隅で、悪霊が彼女を束縛していた様子が描かれる。
真理子は胸が締め付けられる思いでその時を追体験し続けた。
そして、深い闇の中で、美和が悪霊との戦いを繰り広げる様子が現れ、彼女の純粋な意志が不気味な影に飲み込まれる瞬間があった。
真理子は結局、彼女を救うことができなかったのだ。
それが明らかになった時、真理子は深い悲しみに襲われた。
しかし二人は、絶望的な気持ちの中でも、貴重な教訓を心に刻み付けた。
彼女たちを縛るものは、ただ恐れと無知だけなのだ。
村に戻る途中、真理子は美和の生きた証を持ち帰ることができた。
彼女は巫女としての役割を果たし続け、その後も村に平和な日々をもたらしていった。
しかし、あの夜の出来事は彼女自身を変えるものとなり、決して忘れられることはなかった。
信じるということこそが、救いの道であることを彼女は知っていたからだ。