「崩れた家で待つ者」

小さい頃から怖い話が好きだった健太は、大学生になった今でもその興味は衰えることがなかった。
彼は友人たちと夏休みの間、山奥の古びたキャンプ場に訪れることにした。
キャンプ場には、かつて人々が集まり賑わっていたが、今では廃墟同然となった小さな小屋が存在した。

彼らはその小屋を「崩れた家」と呼び、興味半分でその内部を探索することに決めた。
恐怖体験を求める心が、若さの勢いとなっていた。
しかし、その小屋には、ただの廃屋以上の何かが隠されていることに彼らは気づいていなかった。

日が沈み、周囲は暗闇に包まれた。
小屋にたどり着いた時、健太の心は期待と不安の入り混じった感覚で高鳴っていた。
扉は錆びていて、押すときしむ音が響いた。
中に入ると、薄暗いライトの中に、埃まみれの家具や古びた壁が見えた。

「おい、何かあるか?」と友人の玲奈が聞いた。
彼女もまた、興味津々の様子で周囲を見回していた。

彼らはしばらく探索を続けていると、突然、電気がチカチカと点滅し始めた。
健太は驚いて壁にあるスイッチを探ろうとしたが、それは壊れているようだった。
不思議なことに、点滅と共に一瞬だけ、壁の隙間から女性の顔が覗くように見えた。
しかし、すぐにその姿は消えた。

「見た?今、女の顔が!」と健太は興奮し、友人たちに話しかけた。
しかし、彼らはその姿を確認することはできず、一緒にいる仲間たちを不安にさせた。

その後、彼らは電気がついたり消えたりする度に、何か不気味な気配を感じるようになっていった。
時折、床に落ちていた物が動くような音がし、健太は自分の心が不安でいっぱいになるのを覚えた。
気がつくと、健太は他の友人たちとはぐれてしまった。

彼が一人になった瞬間、電気が完全に消えた。
真っ暗闇の中で、彼は心臓の鼓動が聞こえるほど緊張していた。
恐怖に駆られながらも、なんとか出口を目指して進んでいくと、再び灯りがともった。
目の前には、先ほど見た女性の姿があった。

彼女は無表情で、なにかを訴えかけるように彼を見つめていた。
その瞬間、健太は彼女がかつてここに住んでいた霊であることを理解した。
彼女は「生」と「壊れた功績」の間で悩んでいると感じていた。
何かに取り憑かれたように、彼女は心の中で叫んでいた。

もしかしたら、彼女は自分の生きた証を求めているのかもしれない。
健太の心がその想いに共鳴した瞬間、耳元で彼女の声が響いた。
「私を助けて…生きている者の力を…」

ふと気がつくと、健太は必死になってこの場所から逃げ出そうとしていたが、動けないような重い感覚に襲われていた。
「お前の名前は?何があったの?」彼は思わず声に出して問うた。

彼女は微かに、「美香」とだけ返した。
その瞬間、電気が再び点滅し始め、周囲の空気が変わる。
健太は彼女の瞳の奥に無限の悲しみを感じ、彼女の存在が崩れていく様子を見つめていた。
何かを壊したい衝動と、終わらせたい気持ちが交錯する。

次の瞬間、健太は急に自分の背後から冷たい手が伸びてくる感覚を覚えた。
彼女の想いが、彼の生を呼び寄せていた。
その一瞬の出来事が、彼の身体を締め付け、心の奥深くに恐れを植え付けた。
彼は必死になって逃げ出すが、もはや彼女の気持ちから逃れることはできなかった。

暗闇の中、ひどく動揺しながら外に出た健太は、友人たちの姿を見つけた。
しかし、彼の心の中には美香の声が響き続け、生き延びたその代償に何かを失ったような気持ちが残っていた。

「彼女を放っておくことはできない…」その思いが頭を離れず、健太はその後、彼女の姿を求める日々を送ることになった。
あの壊れた小屋の中で、美香は今でも彼を待っているのかもしれない。
彼はその呪縛から逃れられないのだ。

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