静かな夜、友人の健太とともに、壊れたビデオカメラを修理するための部屋に集まった。
壊れたまま放置されていたその部屋は、何か異様な雰囲気を漂わせていた。
壁には古びた和紙が貼られ、色あせた絵画や未使用の家具が散らばっている。
彼らは居心地の悪さを感じながらも、作業を始めた。
健太はカメラの部品を取り出し、光が差し込む窓で作業をしようとした。
しかし、ふとした瞬間、窓が閉まった。
何かに引っ張られるように閉まり、健太は驚いて振り返る。
「おい、今のはどうしたんだ?」と声をあげたが、返事はなかった。
その瞬間、部屋の空気が重くなり、不気味な霧が立ちこめてきた。
窓の隙間から逃げ出すすきもなく、健太と悠人は密閉された空間に閉じ込められたようだった。
霧は次第に濃くなり、彼らの視界を奪っていく。
その中で、二人は互いの声が遠くなっていくのを感じた。
「これ、何かおかしいぞ。早くこの部屋を出よう!」健太は焦りながら叫んだ。
しかし、霧はまるで意志を持つかのように動き、彼らを包み込んだ。
彼らは出口を探すが、足元に転がる家具に躓き、余計に慌ててしまう。
その時、悠人は視界の端で一瞬、白い影を見た。
それはただの霧の錯覚かと思ったが、何度もその影は彼の視界に現れた。
顔が見えないが、確実にそこに存在している気配が感じられた。
悠人は恐怖を感じて声を上げる。
「健太、あれを見てくれ!何かいる!」彼が指差した先には、薄っすらと霧の中に人の形が浮かび上がっていた。
「気のせいだろ、早く出よう!」健太が焦り気味に言ったが、霧は彼らの身体を引き留めるかのように抵抗を感じさせていた。
二人は必死で出口を探し続けたが、距離感がわからなくなり、何度も同じ場所をぐるぐる回っているようだった。
突然、悠人が悲鳴をあげた。
「健太!霧の中に、封じられてる人がいる!」振り返った健太の目の前には、確かに薄っぺらい影が立っていた。
それは、かつてこの部屋に住んでいたらしい、誰かの姿だった。
彼の声は聞こえないが、口をパクパクさせて、助けを求めるかのように健太たちを見つめていた。
「封じられているって、どういう意味だ?」健太は恐れを抱きながらも感じた。
この部屋には、何かが封印されている。
もしかすると、この霧はその封印を破ろうとしているのかもしれなかった。
しかし、どうすればこの状態から脱出できるのか全く思いつかなかった。
「おい、帰ろうぜ!」健太は沈黙を破って言ったが、悠人は動けなかった。
彼はその影に引き寄せられるように、知らぬ間に近づいていた。
「悠人、頼む、戻れ!」健太は彼の腕を掴もうとしたが、霧の中でなかなか届かない。
悠人の姿が次第に薄れていくのを見て、健太の心は恐怖でいっぱいになった。
「助けてくれ!」悠人の声が霧に呑まれて消えてゆく。
健太は無我夢中で動き続け、耳を澄ましてみた。
しかし、その静寂の深さは、何か恐ろしいものが待ち構えていることを示していた。
やがて、健太自身も霧に呑まれ、完全に視界を失った。
不安と恐怖が押し寄せ、彼は無限の暗闇の中で迷子になった。
ふと気づくと、彼は違う場所に立っていた。
もはやその部屋は見えず、彼の周りには静寂だけが広がっていた。
何が起きたのか、悠人はどこに行ったのか、全てが霧の中に封じ込まれたままだった。
彼はこの場所から決して逃れられないのかもしれない、そんな不安を抱えながら、再び迷いの深淵に沈んでいった。