「封印された間の選択」

彼女の名は抱(はぐ)。
静かな住宅街に住む彼女は、一見普通の20代の女性だったが、心の奥には他人には理解されない秘密を抱えていた。
日常は穏やかに流れていたが、次第に異変が生じ始める。
その発端は、最近引っ越してきた隣人との出会いだった。

その隣人、和也(かずや)は不思議な雰囲気を持つ男性だった。
普段は無口でありながら、時折彼の目に宿る影は、周囲を不安にさせる要素となっていた。
抱は和也と何度か顔を合わせるうちに、彼の隠された一面に気づく。
彼は時折、「間」という言葉を口にするのだ。
それは何を意味するのか、抱には分からなかったが、彼女の心の中に小さな疑念が芽生えた。

ある晩、和也の家から微かな声が聞こえてきた。
耳を澄ませると、ささやくような声が繰り返し「封印、封印」と呟いている。
それは彼女をどんどん引き込む言葉となっていた。
抱はその言葉の持つ意味を知りたくなり、和也が何かを隠しているのではと感じ始めた。

次の日、抱は勇気を振り絞り、和也の家に尋ねてみることにした。
ドアをノックすると、彼は意外にも快く彼女を招き入れた。
部屋の中は薄暗く、不気味な雰囲気が漂っていた。
和也は部屋の隅で、不気味な印を描いた紙を広げていた。

「これが、私の…不思議な儀式なんだ。」和也がそう言った瞬間、抱は全身が凍りついた。
彼の目は異様に光り、不気味さが増していた。
「封じられたものを還す儀式をしている。間が整うことで、邪悪なものが解き放たれるんだ…」抱は自分の耳を疑ったが、何か引き寄せられるような気持ちを抑えきれなかった。

何もできずにその場に立ち尽くしていると、和也は紙の上に何かを書き加え始めた。
すると周囲の空気が一変し、彼女の心の中に芽生えた疑念が確信に変わる。
「あなた、何をしているの?」声は震えていた。

和也は振り返り、自らの目がかすむように揺らめいている。
「これは私の使命だ。封印されたものを還す時が来た。『間』がなければならない。」彼の言葉に混乱しながらも、彼の内に秘められた恐怖を抱は感じた。

「それは…人を犠牲にすることなの?」彼女は言葉を選びながら問いかけた。
和也は悲しげに微笑み、静かに頷いた。
「この儀式には、選ばれた人間が必要なんだ。」その瞬間、彼の姿が影のように揺らぎ、抱は胸が苦しくなった。

彼女は逃げるようにその家を後にした。
しかし、彼女の心の奥深くには和也が在り続け、逃げても逃げてもその音が耳に残った。
「封印、封印、還す時が来る…」その言葉は日常生活の中でも彼女を追い続け、次第に不安を募らせていった。

数日後、抱は否応なく和也のもとへ戻る決意を固めた。
彼女の心には恐れがあったが、それ以上に和也の言動がこの町に何か悪影響を及ぼすのではないかという不安が重なっていた。
再び彼の家の扉を開けた時、彼は待っていたかのように笑顔を浮かべていた。

「来てくれたのか、抱。封印を解く儀式、もうすぐ始まる。あなたが選ばれるかもしれない。」そう言うと、和也は立ち上がり、何かを彼女に差し出した。
それは古びた小さな封筒だった。
彼女は手に取ると、中には見知らぬ名前が書かれた紙が入っていた。

その瞬間、彼女は心の底から恐れを感じた。
自分が和也の「間」に入り込んでしまったのだと。
彼女は逃げたが、その後ずっと、その声が離れなかった。
「あなたは封印され、還される運命にある…」抱は、自らの選択した道と向き合わねばならなかったのだ。

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