ある静かな村の外れに「封印の森」と呼ばれる場所があった。
この森は、古くからの言い伝えによれば、あらゆる悪霊や呪いが封じ込められている場所だと言われていた。
村人たちはこの森に近づくことを極端に避けており、特に夜間には決して足を踏み入れないようにしていた。
しかし、一人の少年、健太はその存在を知りながらも、興味を抑えきれなかった。
健太は、同じ村の仲間たちと一緒に遊ぶ日々を送っていたが、彼の心には森への探検の欲求が渦巻いていた。
彼は仲間に話し、夜の肝試しを提案した。
仲間たちは最初は嫌がったものの、健太の熱心な誘いに負け、結局一緒に森へ行くことに決まった。
その晩、月の光が薄らと森を照らし出す中、彼らは元気に森の中へ足を踏み入れた。
奇妙な静けさが彼らを包み、風の音一つも聞こえない。
しばらく歩いた後、健太は森の奥に異様な光を見つけた。
そこには、古びた石碑があり、その周囲には小さな石が無造作に積まれていた。
「これが封印の場所だ!」と健太が興奮した声を上げると、仲間たちは恐れを感じ始めた。
「やっぱり帰ろうよ、健太」と一人が言った。
「大丈夫だよ、何も起こらないって」と彼は答え、石碑に近づいて行った。
触れた瞬間、冷たい感覚が彼の心に走り抜ける。
そして、周囲が急に暗くなり、温かい月の光が消えていった。
仲間たちが驚いて彼を呼び戻そうとしたが、彼の身体が動かない。
まるで、彼が罠にかかってしまったかのように感じた。
「健太!」仲間たちの叫び声が響くが、彼の目の前には異次元のような光景が広がっていた。
石碑はうなり声を上げ、周囲の石がゆっくりと動き出す。
無防備な彼に向かって、子供のような小さな影が数体、肥大し、形を変えて近づいてきた。
「私たちは封印された者たち、自由を奪われた童たちだ」と、ひときわ大きい影が言った。
「この森の中、私たちは永遠に待っていた。君が触れたその瞬間、君は私たちを解放してしまったのだ。」
健太は言葉にならない恐怖を感じながらも必死で身を守ろうとしたが、その影たちの姿は時折子供たちの顔を持ち、時折鬼のような顔に変わった。
「私たちを解放するなら、君も仲間になれ」と影の一人がささやく。
彼は一瞬にしてその言葉が自分に何を求めているのかを理解した。
仲間になれば、一緒に封じ込められる運命に直面しなければならないのだ。
しかし、逃げることもできない。
仲間たちは健太を助けようと森の奥深くに進み、石碑を囲むようにして必死に彼を呼び続けていた。
その姿を見た健太は、自分の選択を悩み始めた。
影たちはじっと待ち続け、「決めろ、君の未来はここにかかっている」と威圧するように言った。
「仲間になりたくない!」健太は叫ぶ。
「自由に生きることが大切だ!」その瞬間、影たちは一斉に声をあげ、彼の拒絶に対して激昂した。
強い風が吹き荒れ、森全体が揺れる。
その振動に彼は自分が罠に嵌っていたことを思い出し、仲間たちの声を思い出した。
「健太!頑張れ!」仲間たちの声が、彼の心を取り戻させた。
彼は逃げ道を探し、石碑から手を引いた。
すると、周囲の景色が変わり始めた。
影たちの声がかき消され、光が戻ってくる。
おのれの力で森を抜け出し、仲間たちの元にたどり着いた。
健太は自分の選択を誇りに思い、心から安堵した。
だが、その後も夜に森の方を振り向くと、彼はふと影たちの目が自分を見つめている気配を感じるのだった。
彼は二度と森には近づくまいと決心したが、影たちの言葉が頭から離れず、恐怖と共に生きることになったのだ。