晩秋のある夜、長崎市の郊外にある古びた神社の陰で、健二は友人たちと肝試しを計画していた。
この神社は昔から「封じられた神の棲む場所」として知られ、特に夜になると人々には近づかないほうがよいとされていた。
しかし、若さゆえの好奇心が勝り、彼は恐れを知らぬ一行を率いて、その神社の境内へと足を踏み入れた。
神社の鳥居をくぐると、静寂が包み込んできた。
月明かりが薄暗い境内を照らし、古びた木々の影が揺れ動く。
友人たちは怖がる様子ながらも、健二が先導することで次第に安堵の表情を見せ始めた。
彼は、ここでの現象が単なる噂に過ぎないと信じて疑わなかった。
しかし、運命を変える瞬間が近づいていた。
「これからみんなで、心霊スポットを確認しようぜ!」と健二が言うと、友人たちはいっせいに笑い声を上げながら同意した。
しかし、その笑い声の背後には、誰も気づいていない小さな囁きが耳元で響いていた。
「来てはいけない…」
神社の奥深くに進むにつれ、空気は一層重くなっていく。
古びた祠に着くと、何かが封じられているように感じる。
健二は、何も知らないままに祠の扉を開けてしまった。
その瞬間、冷たい風が吹き抜け、友人たちは驚きの声を上げた。
何かが解き放たれたのだ。
「やっぱり、ここはまずいかも」と藤本が言い出す。
彼は感覚が鋭い方で、今、彼が感じている不気味な空気にすでに気づいていた。
だが、健二は信じることができなかった。
「大丈夫だよ、何も起こらないさ」と、自信満々に友人たちを励ましながら、彼はさらに奥へと進んだ。
その瞬間、空が急に暗くなり、辺りは薄明かりで覆われた。
視界の中に黒い影が一瞬だけ映り込む。
突然、祠の中から冷たい声が響き渡った。
「戻れ、今すぐに…」
健二はその恐怖の声に背筋が凍りつく。
友人たちも、恐怖に怯えながら後退り始めた。
しかし、一歩踏み出すごとに、何かが彼らを引き寄せるように感じる。
封印されていたものが解き放たれたのか、地面は揺れ、周囲の木々が不気味に揺らめく。
「怖い!帰ろう!」美奈が大声で叫ぶ。
彼女は涙をこらえながら、方向がわからなくなったように立ち尽くしていた。
健二は無理に落ち着こうとし、「まだ大丈夫だ、みんなが一緒なら…」と言ったその瞬間、祠の中から現れた影が彼を飲み込んだ。
健二は動けない。
気づけば、友人たちの姿がぼやけて見え、彼らの叫び声が遠くに感じる。
封じられていた何かが、彼を捕まえ、引きずり込もうとしていた。
自分の身に起こっている現象に、彼は無力感を感じた。
「健二!」と藤本が叫ぶが、その声も徐々に消えていく。
彼は人々の記憶の中から消え去るように、霧のように薄れていった。
神社の周りだけが静寂に満ち、他の誰もその場所へは戻れなかった。
数日後、健二を心配する友人たちが神社に戻ると、初めて訪れた時のような静けさが響いていた。
ただ、その場には彼の姿はなかった。
町の人々は今度こそ「封じられた神の棲む場所」として改めて注意を促した。
しかし、誰もその悲劇の次に続くものに気づくことはなかった。
ただ、月明かりの下、神社の鳥居をくぐる時、どこかに響く囁きがするのだ。
「来てはいけない…」と。