田舎町で、長い間封印されていた古い家があった。
その家は村の外れに位置し、かつては多くの人々が住んでいたものの、ある日突如として誰も住まなくなってしまった。
村人たちはその家を恐れ、「壊れた居住空間」と呼んでいた。
古びた扉はいつも閉じられ、窓はひび割れ、家そのものが何か別の者の影響を受けているように見えた。
ある日のこと、大学生の健太は友人の翔太と一緒にその家を探検することにした。
単なる好奇心からだったが、どこか惹かれるものを感じていた。
「今日は行ってみようよ、どうなるか楽しみだ」と健太は翔太に告げた。
翔太は少し迷った様子だったが、好奇心には勝てずに頷いた。
夕暮れ時、二人は壊れた家の前に立った。
周囲は静まり返り、異様な緊張感が漂っていた。
健太は「ああ、思った以上に雰囲気あるな」と言った。
翔太は少し怯えているようだったが、友人の期待に応えるように勇気を振り絞り、戸を押し開けた。
中に入ると、ほこりが舞い上がり、薄暗い光の中に無数の古い家具が散乱していた。
壁には剥がれた壁紙があり、不気味な絵が描かれている場所もあった。
ベッドの上には古い女性のドレスが掛けられ、まるで誰かがそこに住んでいたかのような状況だった。
二人はしばらくその空間に圧倒されていた。
「やっぱりやめようか」と翔太が言った瞬間、突然、部屋の温度が下がった。
二人は顔を見合わせ、なんとも言えない恐怖を感じた。
維持されていた静けさが壊れ、どこからともなく低い声が響く。
「居てほしい…」
健太は驚いて言った。
「何か聞こえたか?」と。
不安が募り、翔太は首を振った。
「やっぱり帰ろう。」しかし健太はその声に引き寄せられ、「もう少しだけ、探検しよう」と主張した。
さらに奥へ進むと、扉が一枚だけ開いている部屋を見つけた。
床には古びた日記が転がっていた。
二人がその日記を手に取った瞬間、背後でドアがバタンと閉まった。
そして、その瞬間に周囲が異様な緊張感に包まれた。
日記には、孤独な女性が自らの運命と、壊れた人間関係を振り返る言葉が綴られていた。
この家で何が起きていたのかを理解した二人は、徐々に恐れを感じ始めた。
日記の最期の言葉、「私は決して別れない」という部分が特に印象に残った。
まるで何かが自分たちを見つめているかのようだった。
「出よう、早く出よう」と翔太が急かした。
だが、健太の足は動かなかった。
彼は日記をもう一度読もうとしたが、その時、家全体が揺れた。
床の一部が崩れ落ち、健太は危うくその隙間に飲み込まれそうになった。
「翔太、助けて!」と叫ぶと、翔太は必死に手を伸ばした。
なんとか彼を引き上げることができたが、健太は恐怖で震えていた。
「もう長くはいられない、僕たちは帰らなきゃ!」
二人は急いで家を出ようとしたが、外に出る道が見つからない。
壁が崩れ、出口を塞いでいた。
彼らは真っ暗な空間に閉じ込められ、身動きが取れなくなった。
「信じられない、何かに取り憑かれている!」翔太はパニックになり、「もう無理だ、俺たちはここから出られない!」と叫んだ。
健太の心に浮かぶのは、あの女性の日記だった。
彼らには強い友情があったが、今その絆さえも試されようとしていた。
彼らはどのようにしてこの絶望的な状況を打開すればよいのか、分からなかった。
時間が経ち、二人は息を殺して耳を澄ませた。
その時、再びあの低い声が響いた。
「ここに居てほしい…」その声は、やがて二人に降りかかる影となった。
それは彼らの恐怖を形にし、二人の間に亀裂を生む存在だった。
健太は心の奥で何かが壊れる音を聞いた。
最後に、恐怖の中での一瞬、健太は翔太の手を掴みながら、必死に声を振り絞った。
「俺たちは別れない!」しかし、その言葉は薄れゆく光の中で消え、彼らは二度と戻ることのない「居」へと囚われてしまった。