「封印された声」

その日は、故人を偲ぶための葬儀が行われていた。
静かな村の外れにある小さな集落で、今とても大切な人を失った人々が集まっている。
葬儀の場は、黒々とした色の掛け軸や仏具が所狭しと配置され、しんとした空気が漂っている。
故人の名前は佐藤圭一、若くしてこの世を去った、その優しい笑顔が印象的な青年だった。

葬儀の間、親族や友人たちは圭一の思い出を語り合った。
彼をよく知る友人の中で、とりわけ盛り上がったのは、圭一が子供の頃から引き継がれてきた奇妙な伝説だった。
それは、彼の家系に伝わる「封印」の儀式について。
家族の中で特別な力を持つ者が、霊に関わる出来事を事前に予知し、封じ込めることで家族を守るというものだった。

その伝説が語られるたびに、圭一はいつも笑って「そんなもの信じるわけないだろ」と返していた。
しかし、今、その話が語られると、誰もが重苦しい気持ちを抱かざるを得なかった。
葬儀が続く中、そっと窓の外に目をやると、不気味な影が一瞬横切ったように思えた。

「おい、圭一、また戻ってきてくれねえかな」と、一人の友人がぼそりと呟く。
すると、誰かが肩を震わせて「やめてくれ、そういうこと言うのは」と言った。
その瞬間、ぱちんと音がして、従者が持っていたロウソクの灯火が一瞬消えた。
騒然となった葬儀が一瞬静まり返る。
霊を封印する儀式など、現実には無理だと思っていたが、今、その言葉が妙に心に引っかかってしまった。

葬儀が終わり、参列者たちが帰り支度を始めると、喪主である圭一の父親が言った。
「今日は皆さん、私の息子を支えてくれて本当にありがとうございます。ただ、圭一が生前、私に言っていたことがあります。」彼は一呼吸おいて、続けた。
「特別な力を持つ者が再び現れるのは、時が来たときだと。私たちはその力を信じて、霊を封じなくてはならないと。」

その言葉を聞いた参列者たちは静まり返る。
自分たちの身近に圭一の存在が消えてしまうことに、誰もが不安を感じていた。
その夜、自宅に戻ると、圭一の父親は、圭一の部屋にゆっくりと足を運んだ。
彼は昔、圭一が大切にしていたお守りを手にし、封印の呪文を唱え始めた。

ところが、その時、部屋の壁が顔の影を浮かび上がらせる。
「助けてほしい」と囁くその声は、圭一のものだった。
圭一の父親は凍りつく。
彼はどれほどの恐怖を秘めていたのか思い知らされる。
力を持つ者は、再びこの家に戻ってきたのか。
彼は必死で封印を試みるも、心の中には恐怖が渦巻く。

次の瞬間、圭一の姿が実体を持って現れ、その目は悲しみを帯びていた。
「父さん、僕はここにいるよ。でも、僕はもう戻れない。これからのことは、僕に任せてほしい。封印しないで、ただ受け入れてほしい。」彼の言葉は、父親の心を突き刺す。

圭一の父親は、封印することができない。
彼は息子を愛しているが、愛が恐れに取って代わるかのように感じた。
その瞬間、静寂の空気が圭一の周りを支配し、彼はやがて消えてしまった。

次の日、村では圭一の父親が目撃したことが広まり、伝説が新たな形で語られるようになった。
人々は「封印せよ、時が来るまでは再び」と呟きながら、そしていつかまた、圭一が戻ってくることを願って、彼の存在を忘れないようにするのだった。

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