「封じられた真実の影」

深夜の院は静かだった。
月明かりが窓から差し込み、薄らとした青い光が廊下を照らしている。
探偵の佐藤は、その院の古い伝承に興味を持ち、調査に訪れていた。
施設の創立者は、地下に怪しい封印を施したとされ、その後、入院していた患者たちが相次いで消えていったというのだ。

数年前、治療の一環としてこの院に入院していた裕子という女性が、奇妙な失踪を遂げた。
彼女の家族は、彼女が何かを見てしまったのではないかと危惧していた。
佐藤は裕子に関する情報を集め、彼女の最後の目撃情報を追った。
院内の古い記録を調べるため、彼は地下室へ向かった。
そこには、封印された空間があるという噂があった。

地下へと続く階段はひんやりとした空気で満たされ、恐怖心が膨れ上がる。
すると、突如として目の前に巨大な鉄製の扉が現れた。
その扉には古ぼけた印が彫られており、封印の確認を想起させるものだった。
佐藤の心臓が高鳴る。
彼は扉を押すが、ビクとも動かない。
何かに阻まれているかのようだった。

そのとき、背後で声が聞こえた。
「なぜ、そこにいるの…?」振り向くと、そこには幽霊のような表情をした裕子が立っていた。
彼女の目は虚無に満ち、周囲の空気が重く感じられた。
佐藤の心臓は一瞬止まったが、すぐに冷静さを取り戻す。
「裕子さん…どうしてここに?」彼は尋ねた。

「ここには、封印された真実があるの…私もその一部なの。」裕子は小さく呟いた。
彼女の言葉は、包み込むような哀しみを帯びていた。
彼女は再び姿を消し、佐藤の前から消え去った。

その瞬間、鉄製の扉がゆっくりと音を立てて開いた。
恐怖に駆られながらも、佐藤はそれが自分を呼んでいるかのように思えた。
彼は扉の先へと進んでいく。
真っ暗な地下室に足を踏み入れると、奇妙な香りが鼻腔をくすぐった。
次第に、周囲には様々な物体が展示されているのが見えた。
それは、かつてここにいた患者たちの遺品という噂のあるもので、用途不明な医療器具や、日記、衣服が散乱していた。

彼が目の前の一つの箱を見つめていると、薄暗い空間の隅から再び裕子が現れた。
「その中には、私の思いが込められているの…開けてはいけない。」彼女は警告した。
しかし、好奇心が勝り、佐藤は箱の蓋を開けてしまった。
その瞬間、周囲の空気が変わった。
無数の囁き声が彼の耳に響き、彼は後ずさりした。

「この院で何が起こったのか、知りたいのか…?」声は冷たい。
佐藤はそれに否定できなかった。
彼の過去の調査の結果が今、目の前に現れつつあったからだ。
しかし、同時に彼は恐怖を感じていた。

不意に、封印された空間から何かが飛び出してきた。
それは影のような存在で、彼に向かって迫ってくる。
「裕子…?」と叫んだが、彼女は何も答えなかった。
佐藤は逃げようとしたが、影が彼の体を捕まえ、意識を失っていく。

次に目を覚ました時、彼は床に倒れていた。
周囲は何も変わっていない。
どこか遠くで人々の声が聞こえたが、その声は彼には届かなかった。
裕子の姿は消え、彼の心の中だけに彼女の言葉が残っていた。

「真実は封じられ、人々の記憶から消えてしまった。忘れないで…」

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