離れ小島にある小さな神社。
周囲を海に囲まれ、多くの人々が訪れることもなく、静まり返ったその場所には、一つの伝説が語られていた。
神社の横には、供養のために作られた小さな墓がいくつか並んでいる。
それは、かつてこの島に住んでいた人々の魂を封じ込めるためのものだと言われていた。
ある夏の日、大学生の佐藤健太は友人の田中美咲と共にこの神社を訪れた。
彼らは冒険心に溢れ、廃墟や秘密の場所を探すことを楽しんでいた。
友人たちとの旅行の一環として、特に理由もなく離れ小島を選んだのだが、そこに広がる静けさに警戒心を抱く者はいなかった。
「この神社、なんだか怪しい雰囲気があるね」と美咲が言った。
「気にするなよ。どうせただの伝説だろ?」と健太が返す。
彼らは神社に入ると、古びた石の鳥居が静かに立っていた。
参道の両脇には草が茂り、打ち寄せる波の音が耳に心地よい。
だが、その静けさの裏には不気味さが潜んでいた。
健太が墓のほうに目を向け、ひょんなことからその中の一つに手を触れてしまった。
瞬間、ひどく重たい空気が周囲に広がり、彼の背筋に寒気が走った。
「美咲、悪いことをしちゃったかも…」と彼は言った。
美咲は心配そうに「ど、どうしたの?」と尋ねると、健太はただ「気のせいだ、行こう」と彼女を先に行かせた。
だが、心の奥で何かが彼を掴んで離さなかった。
その夜、彼らは宿に戻った。
健太はベッドに横たわると、恐怖から眠れぬ時間が続いた。
何かが彼を呼んでいる、今すぐにでもその神社に戻らなければならないような衝動に駆られた。
結局、健太は深夜に一人で神社へ向かうことにした。
暗い海岸を歩き、神社に辿り着いた時、彼は不思議な光景を目の当たりにした。
墓の周りには微かな青白い光が漂い、まるで誰かがそこにいるかのようだった。
恐怖心が増す中、その光源に近づくと、急に冷たい風が彼を包み込んだ。
「出てこい…」という声が耳元で囁かれ、健太は思わず飛び退いた。
そこには、薄くなった人影が見えた。
彼は言い知れぬ恐怖に襲われ、動けなくなってしまった。
「私を助けて…」その影は彼に向かって伸びる手を差し出した。
「誰だ?」健太は思わず叫んだ。
その瞬間、目の前に祭られている封じられた魂の一つが浮かび上がり、悲しみと共に語りかけてきた。
「私はかつてこの島で生きた者。供養されることなく、何代も苦しんでいる。あなたの手でこの呪いを解いてほしい。」
健太はその言葉に心を打たれた。
彼がわずかでも手を差し出せば、その者が永遠の苦しみから解放されるのだと分かった。
しかし、彼は足が動かず、恐怖が彼の心に押し寄せた。
「お願い、助けて」と言う声が耳元で響く中、彼は心の葛藤に悶えた。
その時、急に視界が真っ白になり、彼の意識がどこか遠くへ飛んでいく感覚に襲われた。
目を開けると、そこには静かな夜の神社、周囲は何も変わらないように見えた。
しかし、心に残った重苦しい感覚は消えていなかった。
再び、美咲の元へ戻った健太は、一晩中その恐怖の体験を思い返していた。
彼が触れた墓の一つから、解放された魂もまた、現世へ戻ったのだろう。
そして、その夜から神社には新たな伝説が生まれ、誰もが避ける場所となってしまった。
彼はその出来事を忘れられず、心に封じ込めたまま日常へ戻った。
だが、時折夢の中で、その声が響くことがあった。
「助けて、私を忘れないで…」