小学校の教室は、長い夏休みが終わり、再び賑やかさを取り戻す準備をしていた。
しかし、その校舎には誰も知ることのない秘密が隠されていた。
放課後の誰もいない教室の片隅にあった一つの封筒。
中には、30年前に消えたままの生徒の試験答案が入っていた。
その生徒の名前は、田中明。
田中は、成績優秀で常にクラスのトップを争っていたが、ある日突然、学校に姿を見せなくなった。
何も知らないまま、彼を心配するクラスメートたちは、日々の生活を続け、月日が経つごとに田中のことを忘れていった。
しかし、その教室に封じ込められた彼の記憶は、少しずつ重く、暗い影を落としていた。
ある日の放課後、女子生徒の佐藤美佳は、いつもとは違う気配を感じて教室に足を踏み入れた。
不気味な静けさの中、彼女の視線はその封筒に引き寄せられた。
何かに呼ばれるようにその場所に近づくと、胸がざわつく感覚を覚えた。
それは、「試される」という感覚だった。
思わず手を伸ばし、その封筒を手に取った美佳は、恐る恐る中を開けた。
出てきたのは、田中の試験答案だけでなく、彼の日記のページも混ざっていた。
一部が破れており、空白の部分が続くその記録は、彼の苦悩を物語っていた。
友達との関係、学校への不安、そして引きこもりの決意。
彼がどれほど孤独であったかを如実に伝えていた。
ページの隅には、小さな文字で「試されるのは、永遠にこの場所から逃げ出せない者か」と記されていた。
まるで、彼の意志が封じ込められたかのように。
美佳はその言葉に、恐れを抱きつつも、好奇心が勝った。
「これが何を意味しているのかを知りたい」と、一歩踏み込む気持ちが湧いてきた。
その瞬間、教室の明かりが瞬くと、温かい風が吹き抜け、視界が揺らいだ。
驚いて振り返る美佳の目の前に黒い影が現れ、田中の姿が浮かび上がった。
彼の顔には悲しみと痛みが漂っていた。
「私を忘れないでほしい…」という声が、耳に響く。
彼の存在は、ただの影ではなく、今もこの場所を彷徨い続けている一人の魂だった。
「私を助けてよ。私を思い出して！」と田中は懇願し、美佳の心に重くのしかかってきた。
彼に何が起こったのかを知りたいと思いながらも、恐れる気持ちが全身を包み込む。
封じ込められた思い出、その影響がこの教室に存在し続けていたのだ。
美佳は決心した。
彼を助けるためには、この学校の秘密を解かなければならない。
田中の言葉を忘れないように、彼のために何ができるかを考え続けることを。
彼の存在を無視することはできない。
彼の響き続ける声を聞く限り、逃げることなどできない。
その日以降、美佳は田中の存在を意識しながら学校生活を送った。
彼を思い出すことで、忘れ去られようとしていた過去を蘇らせる。
彼の記憶が永遠にこの教室に封じ込められたままだったとしても、誰かがその存在を受け入れ、解放される日は必ず来ると信じていた。
そして、美佳はその思い出と共に、新しい世代のために彼の名を伝え続けることを決心した。
教室には彼の記憶が残り続け、彼の苦しみが無駄にならないようにと。
永遠に封じ込められた田中の存在。
それは決して忘れられない試練となるのだった。
