「封じられた夜の影」

静かな夜、間健介は大学のサークルの友人たちと肝試しをするために、古びた舎へと足を運んだ。
仲間たちとの集まりがつまらなくなってきた頃、肝試しは彼にとってのわずかな興奮をもたらすものだった。
この舎は歴史があり、かつては多くの人々が住んでいたと言われる場所だったが、今は誰も近づこうとはしなかった。
噂によれば、ここには「突」という現象が現れるのだという。

舎の前に立った時、健介はどこか不安に駆られたが、仲間たちの励ましの声がその不安を打ち消してくれた。
彼は舎の扉を押し開け、中に入った。
暗闇が彼を包み込み、仲間たちの笑い声が遠く聞こえる。
内部は冷え込み、湿気が充満し、まるで時が止まったかのようだった。
彼は薄暗い中、足元に注意しながら奥へ進んで行った。

その時、不意に「突」という音が背後から聞こえた。
まるで誰かが急に物にぶつかったような音だった。
彼は振り返ったが、誰の姿も見えなかった。
仲間たちもおそらく別の部屋にいるのだろう。
しかし、その音は健介の心に不気味な影を落とした。

「もういいかげん戻ろうよ」と心の中で思い始めた。
その時、ふと目にした部屋の一つに引き寄せられるように、健介は入り込んだ。
そこはかつて何かが封じ込められていた場所だった。
無造作に置かれた家具が朽ち果て、壁には「絶対に開けるな」と書かれた古びた紙が貼られていた。

好奇心が勝り、健介はその紙を剥がし、部屋の奥にあった扉に手をかけた。
扉は重く、抵抗を感じたが、意を決して開けると、驚くべき光景が広がった。
そこには古い檻があり、その中には痩せこけた人影が横たわっていた。
目を閉じているその存在は、まるで長い間封じ込められていたかのようだった。

「おい、健介、何やってる!」不意に仲間の声が背後から聞こえ、彼は我に返った。
慌てて振り返ると、仲間たちが数人入ってきて、様子を見守っていた。
「大丈夫か?」心配そうな顔をしている友人に向かって、健介は必死に説明しようとしたが、声がうまく出ない。

再び振り返ったその瞬間、檻の中にいた影が息を吹き返した。
それは薄暗い中でも、明らかに動き始めた。
仲間たちもその異様な光景に凍りついた。
影が檻から出てくると、瞬間、彼の心に恐怖が突き刺さった。
その影はまるで脈を持っているかのように、じわじわと近づいてきた。

「閉じ込められた者は、絶対に自由にはなれない」という言葉が、健介の耳の中で響く。
それは、彼が開けてはいけなかった扉だったのだ。
彼は仲間たちと共に逃げようとしたが、突然「突」という破裂音が辺りを包んだ。
健介は振り返ることもできず、ただその場を離れようと必死になった。

逃げる途中、彼は後ろに気配を感じた。
仲間の一人、佐藤がいなくなっていることに気づく。
恐ろしい勢いで走り続けたが、足元に何かが引っかかり、転倒してしまった。
息を切らしながら振り返ると、佐藤が影に包まれて消えていくのが見えた。

「佐藤!」と叫んだが、声ががなり、声がかき消される。
彼は混乱し、逃げることしかできなかった。
そして仲間たちも、次々と影に飲み込まれていく。

その瞬間、健介は舎の外にたどり着く。
まるで呪縛から解放されたかのように感じたが、振り返ると、舎は静けさを取り戻していた。
彼は一人ぼっちの暗闇の中に立っていた。
佐藤も、他の仲間も、すべてが徐々に消えていく。
それはまるで彼自身が、閉じ込められた存在のように感じられた。

逃れられたと思ったのに、彼の中に恐怖が宿り続け、封じ込められた気持ちから解放されることはなかった。
彼は一時の興奮が、永遠に彼の心を絶つものであったと悟るのだった。

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