陽が沈み、薄暗くなった町の隅には、古びた小道があった。
そこは誰も通らず、静まり返った空間が漂っていた。
小道の先には、かつてにぎわっていたが、今はひっそりとした廃屋があった。
人々はその廃屋を「孤独の家」と呼び、近づく者はいなかった。
ある日、大学生の圭介は友人たちと怪談話をしていた。
彼は好奇心旺盛で、面白半分に「孤独の家」に行ってみようと決心した。
友人たちは彼を止めようとしたが、彼の目には明らかな興奮が浮かんでいた。
「ただの廃屋だろ？ 何も起こらないよ」という言葉に、彼は自信を持って、「すぐ戻るさ」と言い残し、小道を一人で進んでいった。
薄暗い道を進むにつれ、圭介の心臓が高鳴る。
気温が急に下がったように感じ、周囲の静寂はますます彼を不安にさせた。
何かがいつも彼を見ている。
気のせいだと自分に言い聞かせながら、彼は廃屋の前に立った。
扉は簡単に開き、中に入ると、一瞬にして冷たい空気が彼を包み込んだ。
部屋の中は無惨に崩れ、朽ちた家具が散らばっていた。
圭介は懐中電灯の光を当てながら、何があるのかと探検を始めた。
だが、彼はすぐに変な気配を感じることとなった。
部屋の隅に、誰かの視線を感じるのだ。
その瞬間、彼の耳に不気味なささやきが届いた。
「ここは孤独だよ……」圭介は驚き、振り返って振動する声の正体を探ったが、周囲には誰もいなかった。
彼の心に恐怖が広がる。
「誰かいるのか？」と声を出すと、再びささやきが返ってきた。
「私はここにいる、いつも孤独に……」
圭介は急に動けなくなった。
かつてこの廃屋に住んでいた霊が、孤独を感じているというのだろう。
その霊の名は、秋山と言った。
生前、秋山は一人寂しくこの家で過ごしており、誰にも理解されない苦しみに耐えていた。
彼が死んだ後も、その想いは消えず、廃屋の隅にただひっそりと佇んでいた。
圭介は心を決めた。
「ここにいるなら、何か言いたいことがあるのか？」と聞くと、冷たい風が彼を包み込む感覚がした。
「私は孤独で、忘れられた存在だよ。誰にも気づかれない、ただの影だ……」圭介は秋山の過去に触れてしまったようだった。
彼は「君はもう孤独じゃない。ここにいる僕が理解するよ」と答えた。
すると、部屋の空気が変わり、圭介はそこに秋山の姿が浮かび上がるのを見た。
しかし、彼の顔はどこか悲しげだった。
「かつての記憶が、私を囚えている。消え去りたいが、消えられない」と彼は言った。
圭介はその言葉に胸を痛めた。
秋山の孤独の中にいると、彼もまた心が締めつけられるような思いがした。
彼は知っていた。
孤独は時に人を死に至らしめることがあるということを。
圭介は言った。
「じゃあ、私があなたのことを覚えている。決して忘れないから、安心して去っていいよ。」
しばらくの沈黙の後、秋山の表情が柔らかくなった。
「ありがとう……貴方のおかげで、私は少し楽になった。私を忘れないでいてくれるなら、私はここにいてもいい……けれど、また誰かが訪れることを望んでいる。孤独は怖いから……」
圭介は懐中電灯を消し、深呼吸した。
彼は静かに廃屋を後にした。
そして、かつての住人のことを忘れないことを胸に刻んだ。
小道を出ると、彼は振り返った。
そこにはもう一人、秋山の静かな姿が見えた。
彼の想いを受け止め、圭介は新たな旅への一歩を踏み出した。
