かつて、ある村には一際強力で恐れられた鬼が住んでいた。
その鬼の名は、嫉妬の鬼。
彼女は、美しい者、才能に恵まれた者に対して異常な嫉妬の念を抱き、彼らの幸福を妬む存在だった。
彼女自身は醜い姿をしていたため、他者の光り輝く存在が耐えられなかったのだ。
村の人々は、嫉妬の鬼の噂を知り、鬼を刺激しないように生活していた。
しかし、そんな彼女にとって最も気に入らない存在が一人出現する。
それは、若い娘の名前は美咲。
美咲は村一の美しさと、卓越した歌声を持ち、村人たちから愛されていた。
幸せそうに笑う美咲の姿を見るたびに、嫉妬の鬼は狂おしいほどの羨望を抱くようになった。
ある晩、嫉妬の鬼は満月の光の下、村の外れの森で自らの力を呼び覚まし、恐ろしい儀式を行った。
彼女は美咲を狙い、強力な呪いを発動させることにした。
その呪いは、美咲の周囲の人々を徐々に取り込むもので、彼らが美咲に対して自然と嫉妬心を抱くように仕向けるものだった。
日が経つにつれ、村人たちはどんどん美咲を妬むようになっていった。
彼女の歌声が響くたび、聞く者は心の内に畏れと嫉妬が芽生える。
美咲の笑顔の裏には、次第に孤独が影を落とすようになった。
彼女は誰かに助けを求めたかったが、誰も彼女を理解できないように思えた。
そして、ついにその日がやってきた。
村人たちは集まり、美咲の歌声を耳にするために集まったが、嫉妬心にとらわれた者たちの心には、強烈な敵意が潜んでいた。
美咲が歌い上げると、村人たちの間に不穏な空気が漂い、次第に彼女を非難する声が上がり始める。
「美咲はずるい」「あんなに歌が上手いのはおかしい」「みんなの目を引こうとしているだけだ」
切りつけるような言葉が飛び交う中、美咲は怯えた。
彼女の心は絶望に包まれ、次の瞬間、嫉妬の鬼の存在を悟った。
村人たちの心の中で、鬼の呪いが確かに作用していたのだ。
美咲は涙を流すが、誰も彼女の声に耳を貸さなかった。
その瞬間、嫉妬の鬼は微笑んだ。
彼女が欲していたのは、美咲の孤独だった。
村を支配する嫉妬の波に、美咲を飲み込むために。
ふと、村の中心にある古びた神社が揺れ始め、逆に美咲の歌声が鬼の呪いによって力を失っていくのを見た。
鬼の命令通りに村人たちが彼女を追い詰める姿を見た彼女は、無力感に苛まれ、さらに鬼の力が強まるのを感じた。
そのとき、彼女は心の奥底に秘めた力を思い出した。
それは、彼女自身の命の源であり、歌声に宿る真実の力だった。
美咲は深呼吸をし、全ての思いを込めて最も美しい旋律を歌い上げた。
その声は、村人たちの心の嫉妬を解きほぐし、希望を取り戻す力を持っていた。
美咲の歌声が響くと、村人たちの表情が次第に変わっていく。
彼らは心を解放され、嫉妬の鬼の呪縛から解き放たれる。
しかし、嫉妬の鬼はそれを許さず、ますます憎悪を抱いて美咲に迫った。
今や、鬼と美咲の壮絶な戦いが始まった。
鬼は彼女を襲い、嫉妬の炎を放つが、美咲の真実の歌声はそれを打ち消す。
しだいに、美咲はその歌声によって鬼の呪いを消すことに成功し、村人たちの心から嫉妬を取り除くことができた。
鬼は次第に弱まり、抵抗を失っていく。
冷たく揺れる月明かりの中で、一瞬の静寂が訪れた。
その瞬間、嫉妬の鬼は最後の力を振り絞り、美咲に向かって叫んだ。
「お前は決して他者に認められることはない！」
だが、美咲はゆっくりと微笑み、「私の歌が届くなら、嫉妬は無意味だ」と言った。
音楽の力は、悪の力を上回ることを証明した瞬間でもあった。
嫉妬の鬼はにっこり笑いながら徐々に消えていく。
村人たちも、彼女の強さを認め、今度は美咲の幸せを願うようになった。
こうして、美咲は村に新たな希望をもたらし、嫉妬の鬼は敗れ去った。
やがて村は、友情と愛情で満たされていったが、誰もが心の中に潜む嫉妬心を忘れないようにした。
彼女の歌声は、今もなお、村の空に響き渡っている。
