ある町の片隅に、薄暗い路地があった。
その路地は人々に敬遠され、誰も近づかない場所となっていた。
その理由は、そこにまつわる「れ」という言い伝えだった。
昔々、路地の奥に住んでいた美しい女性、玲子が、同じ町のある男性に恋をした。
しかし、彼は玲子の親友である美奈子に心を奪われてしまった。
玲子の心は嫉妬で燃え上がり、次第にその想いは募っていった。
ある晩、玲子は思わず感情を抑えきれず、美奈子に対して呪いの言葉を投げつけた。
「あなたの幸せが壊れてしまえばいい!」その瞬間、街の空気が一瞬冷たくなり、一陣の風が吹いた。
そして、その夜を境に、美奈子は行方不明になってしまった。
数年が経ち、玲子は悔いを抱えながら日々を送っていたが、町の人々は次第に美奈子のことを忘れていった。
しかし、玲子は忘れられなかった。
彼女は毎晩路地を訪れ、星空の下で美奈子が戻ってくるのを待ち続けた。
しかし、ある晩、彼女はふと気づいた。
なぜか、路地の奥から誰かの視線を感じるのだ。
好奇心に駆られた玲子は、思い切ってその視線の元へ足を運んだ。
そこには、薄暗がりの中に人影があった。
それは、自分自身に似た女性の姿だった。
驚いた玲子は思わず後退り、息を呑んだ。
影の女性は微笑みながら、「私はあなたの心の奥深くに宿る嫉妬心。その名も吸。あなたがこれまで抱いてきた想いが具現化した存在よ」と語りかけた。
玲子は混乱した。
「なぜ私の前に現れるのか?」と問いかける。
しかし、吸は答えなかった。
「あなたは私を呼び寄せたの」とだけ言い残し、いつの間にか薄らいでいく。
その後、玲子は日々を過ごす中で、吸の存在を感じ続けるようになった。
それは、彼女が思っていた以上に強力な影響を与えていた。
嫉妬心の力は、彼女が忘れかけていた美奈子の想い出に新たな狂気をもたらしていたのだ。
玲子は次第に周囲の人々が彼女を妬むような目で見るのを感じるようになり、孤独感に苛まれた。
町の人々は、美奈子の行方不明の噂を忘れ去ったが、玲子は行動に出ようとしていた。
彼女は吸の力を自身のものとし、美奈子を取り戻すための方法を探り始めた。
玲子は夜ごとに路地を訪れ、ほの暗い影の中で吸と対話を試みた。
そしてある晩、吸は再び現れた。
「あなたの嫉妬が私の力を強める。もっと強く、嫉妬して。それが私の存在を実現させてくれるから」と囁いた。
玲子はその言葉に取り憑かれ、やがて彼女の心の闇は深まっていった。
美奈子への想いはますます呪いに近づいていき、彼女の心もまた変わり果てていった。
玲子は妬みを抱き続けるが、町の誰も彼女を理解する者はいなかった。
数日後、玲子は意を決して行動に出ることにした。
美奈子の足取りを追い、彼女の行方を探すために町へ出た。
ただ、そこには美奈子の姿はなかった。
彼女はまるで消えたように、町のどこにも存在しなくなっていた。
その時、玲子の頭にふと吸の声が響いた。
「実のところ、私はあなたの嫉妬から生まれた存在に過ぎない。もっと強く妬んで。そうすれば、私が美奈子の姿を借りて、彼女を失ったあなたに再び現れることができるの」と囁いた。
玲子は決意した。
嫉妬心が持つ力を完全に手に入れ、吸とともに美奈子を蘇らせようとした。
だが、欲望は果てしなく、その反動に打ちひしがれていく。
町の人々は次第に彼女を恐れ、彼女自身もまた自分を恐れるようになっていた。
それから、玲子は何者かに捕らえられ、その存在は次第に他人の記憶から消えていった。
ただひとつ、町の伝説として「嫉妬を抱えた美しい女性が、消えた友人を求める影となり、路地に佇んでいる」という噂が残されるだけだった。
玲子は自らの嫉妬の果てに、変わり果てた存在となり、永遠に路地で迷い続けていた。