深夜、大学のキャンパスは静まり返っていた。
教室の片隅で、友人たちと勉強をしていた田村亮太は、ふとした瞬間に目が眩むような不気味な感覚に襲われた。
その瞬間、教室の壁に開いた小さな窓から、人影のような何かが彼を覗いているような気配を感じた。
恐る恐る振り返るも、そこには何も見えない。
ただ、薄暗い教室が静けさを保つだけだった。
彼は気のせいだと思い、再び勉強に集中しようとした。
しかし、その影が再度彼の視界に入り、彼の心に蓄積されていく不安感が膨らむ。
友人たちに話しかけても、気が散っている様子が見えた。
その夜、亮太は自分の心を整理できないまま、帰宅の途につくことにした。
次の日、亮太は大学の図書館で同じように感じた。
彼は勉強に集中しようとしたものの、心の奥にのしかかる不安が消えない。
ついには、友人の佐藤美咲にその話をすることにした。
「最近、教室や図書館で変な気配を感じるんだ。誰かが見ている気がする」と告げると、美咲も困惑した表情を浮かべた。
「それ、実は私も経験してる」と彼女が言った。
「教室の裏にある廊下で、ずっと誰かに見られている気がして、怖くてたまらないの。」
二人は、この現象の原因を探ることにした。
校舎の古い歴史を調べ始めると、ある噂が浮かび上がった。
かつてこのキャンパスには、圧倒的な嫉妬によって命を失った女学生の霊がいるというのだ。
彼女の名は間咲希。
彼女は自身の望む愛を手に入れられず、悲劇的な運命を選んでしまった。
その心の中に残された悪しき思いは、この場所に封じ込められたままだった。
亮太と美咲は、咲希の伝説を知るにつれて、より一層警戒心を抱くようになった。
しかし、悪意の影を持つ彼女に関わることで、彼らもまた呪われてしまうのではないかという恐怖が、心の中で大きくなっていった。
そんな中、亮太はある晩、夢の中で咲希の姿を見た。
彼女は彼に向かって、「助けてほしい」と懇願していた。
その瞳には苦悩の色が浮かんでおり、何かを求めているように感じた。
目が覚めた亮太は、彼女が本当に助けを必要としているのか、それとも自分たちを貶めるために近づいてきたのか分からなかった。
彼は美咲にこの夢のことを話したところ、彼女も類似の夢を見たと言う。
「夢の中で咲希が、私のことを憶えていてくれた気がする」と美咲が言った。
その瞬間、亮太は彼女の夢が単なる勘違いではないことを確信した。
二人は咲希の悲劇を解決するために、彼女の想いを解き放つ方法を探すことに決めた。
もう一度、彼女の存在が意識されるような場所へ行くことにした。
教室の裏の廊下、あの薄暗い空間に戻る覚悟を決めた。
夜になると、亮太と美咲は手を繋ぎ、怯えながらも廊下へ向かった。
寒さが彼らの背筋を這い上がる。
廊下に足を踏み入れると、周囲が不気味に静まり返っていた。
恐る恐る進むと、突然、ズシリとした気配を感じ、立ち止まる。
そして、まるで空気が震えるような感覚に襲われ、目の前に間咲希の姿が現れた。
彼女は涙を浮かべ、悲しげな表情でゆっくりと近づいてきた。
「助けて…私はまだここにいる」と声を漏らす。
美咲はその姿を見て、心の中の恐怖が和らいでいくのを感じた。
亮太も同様に、咲希の望みを果たす弾みを得た。
「私たちがあなたを忘れない。あなたの幸せを願っている」と言った瞬間、彼女は微笑み、清らかな光を放ちながらその場から消えていった。
冷気が一瞬にして消え、周囲が明るくなった。
朽ちた廊下には、今まで感じていた悪意がなくなったようだった。
彼らはその時の出来事を忘れないことを誓った。
亮太と美咲は、間咲希の存在を心に刻みながら、今後の自分たちの人生を歩んでいくのであった。
