春のある日、古びた寺での修行を始めた青年、信也は、新しい環境に胸を膨らませながらも、少々の不安を抱えていた。
師である俊明は、非常に厳しい人物で、その教えは厳格ではあったものの、一方で深い知恵があった。
不安こそあれ、彼は師の教えを受けることに期待を寄せていた。
寺は静寂に包まれており、深い緑に囲まれている。
その美しい環境は、いつしか信也を安心させ、心を落ち着ける場所となっていた。
しかし、ある日から、彼は不思議な現象に悩まされるようになった。
仲間たちとの修行が進む中、何度も信也は薄暗い仏殿で、誰かが彼を見つめている感覚に襲われたのだ。
特に気になるのは、仲間の一人である健一だった。
彼はいつも自信に満ち、仲間の中でも特に注目を集める存在だった。
信也は、彼に対して嫉妬の感情を抱くようになり、次第にその思いは膨れ上がっていった。
特に、師の俊明が健一に特別な教えを授けているのを目の当たりにしたとき、信也は心に深い影を抱えるようになった。
信也はこの嫉妬が心を蝕むことに気付き、何とかそれを振り払おうと努力した。
だが、嫉妬の感情は彼自身の心を曇らせ、師や仲間たちとの関係にも影を落とすようになった。
さらに、彼が不安に駆られるたび、あの誰かの視線を感じることが増え、恐怖が心に広がっていった。
ある晩、信也は仏殿で修行を終えた後、静まり返った空間に一人佇んでいた。
すると、その瞬間、彼の目の前に薄暗い影が現れた。
それは、今まで感じていた視線の正体であり、信也をじっと見つめていた。
影は次第に形を成し、彼に向かって言葉を発した。
「お前は嫉妬している。その心は闇を呼び寄せる。」
信也は恐怖で震えた。
自分の心の内が具現化してしまったのだろうか。
悪霊のようなその影は、彼の心の深い部分を触れ、嫉妬と恨みの感情がどれほど危ういものであるかを知らしめてきた。
彼は必死にその影から逃げようとしたが、囚われたように動けず、また影は言った。
「心の嫉妬はお前自身を食い物にする。師や仲間を失いたくはないか。」
その言葉に、信也は察した。
嫉妬の感情が彼を束縛していたのだ。
彼は自分自身の過ちを認め、心を清める決心をした。
彼は影に向き直り、大声で叫んだ。
「もう、十分だ! 私は私の道を歩く。嫉妬なんかに負けない!」
すると、影は一瞬静まり、次第に消えていった。
信也は解放された気分で、心の中の嫉妬が薄れていくのを感じた。
彼は夜空を見上げ、星々の微かな光に目を細めた。
その瞬間、彼は自分自身の道を見つけたようだった。
翌朝、信也はいつも通りに修行を行った。
その姿は、自信に満ち溢れていた。
俊明も彼を見て、満足そうに微笑んだ。
仲間たちも明るい雰囲気で接してくれ、信也は再び彼らとの絆を感じることができた。
だが、ふと気付くと、仏殿の片隅にあった薄暗い影の跡は、まだそこに残っているように感じた。
それは彼が真正面から向き合った心の闇であり、嫉妬の名残でもあった。
この経験を忘れないように、信也は心の奥深くにその影を留めておくことにした。
彼の心が乱れることがあれば、再び向き合う勇気を持っていようと。