ある地方の小さな村では、古くから伝わる言い伝えがあった。
それは、村の裏山に生息する不気味な鳥についてのものだ。
この鳥は、夜になると辺りに鳴き声を響かせ、人々に恐怖をもたらすとされた。
その鳴き声を耳にした者は、願いが叶う代わりに、何か大切なものを失う運命にあるという。
多くの村人たちは、その伝説を信じずに暮らしてきた。
しかし、ある日、村に住む少年、健太は、その話を聞いてしまった。
彼は、村に伝わる呪いに興味を持ち、不思議な気持ちを抱いていた。
そんな彼は、裏山へと足を運ぶことを決意する。
鳥の声を聞くことで、自分の願いを実現することができると信じていたのだ。
夜が深くなると、健太は裏山の奥へと進んだ。
月明かりの中、周囲は静まり返り、不気味な静けさが漂っていた。
ふと、その瞬間、彼の耳に鳥の鳴き声が響いた。
それは、人間の声のように透き通り、彼の心に強く響くものであった。
「自分の願いを語れ」と、耳元でささやくように聞こえた。
恐れることなく、健太は自分の望みを述べる。
「僕は、学校で一番になりたい。」
その瞬間、彼の前に現れたのは、真っ黒い羽根を持つ不気味な鳥だった。
まるでその存在は、この世のものではないかのように、彼の目の前を舞い飛んでいた。
健太は、一瞬恐怖を感じたが、鳥は優雅に彼の耳元に近づき、再び囁いた。
「代価を払え。」
その言葉は、健太の心をざわつかせた。
何を失わなければならないのか、彼には分からなかった。
しかし、願いの強さが彼を引き寄せ、健太はそのまま目を閉じた。
何かが彼の身体を覆い、思い出すのも辛い痛みが心に広がった。
だが、それでも欲望が彼を支配していた。
日々が経つにつれ、驚くべきことが起こった。
健太は自分の成績が急上昇し、周囲からも注目されるようになった。
しかし、その裏には不可解な現象が続いた。
彼は次第に、何かを失っていることに気づき始める。
友達との関係が冷たくなり、彼に向けられる悪意が次第に増していくのだった。
それでも健太は、前に進むことを選んだ。
日々のストレスを抱えながらも、学校のトップに立つために努力し続けた。
しかし、ある晩、彼は眠れぬ夜を過ごすことになった。
焦燥と不安が彼を苛み、廊下の窓の外に何かを感じた。
視線を向けると、あの不気味な鳥がじっと彼を見つめていた。
そこには、捕らえられたかのような健太の姿があった。
その瞬間、不意に彼は理解した。
彼が代価として失ったものは、友情や愛情だけでなく、彼自身の大切な部分だったのだ。
彼は何を願ったのか、もう思い出すことさえできない。
学校での成功も、実は彼の心を蝕む裏切りだった。
健太はその瞬間、鳥の声が耳の中で響き渡るのを感じた。
「もう遅い。私を頼らなくても、自分で望んでいた結果に導いていた。この呪いは、あなた自身が作り上げたものだから。」
彼は哀しい気持ちで満たされ、裏山へと戻ることを決意した。
鳥に与えられた代価を取り戻すために。
再び月明かりの下で、彼は大声で叫んだ。
「お願い、全部を戻して!」
しかし、返ってきたのは静けさだけだった。
それから、村には、健太の姿を見かけることがなくなった。
ただ、裏山の丘からは、空に向かって彼の望みの声が響き渡る、薄暗い夜の鳥の鳴き声が聞こえるだけだった。