時は秋、静かな田舎町にある小さな村。
村の外れに位置する古い神社は、長いこと人々から敬遠される存在だった。
そこには、村人たちの知る人知れぬ「界」があると噂された。
それは、生者と死者の狭間で、失われた絆がかつて仲間だった者たちを呼び寄せる場所だと言われていた。
小林遥は、この村に生まれ育った。
両親は幼い頃に事故で亡くなり、祖母の元で育ったが、その祖母も数年前に亡くなってしまった。
孤独な日々を送る彼女は、寂しさを紛らわせるために仲の良かった友人たちと出かけることが多かった。
特に、親友の直也とは深い絆を育んでいた。
ある晩、遥は直也と一緒に神社を訪れることにした。
友人たちからは神社にまつわる怖い話を聞かされていたが、好奇心が勝り、二人は夜の神社の境内へ足を踏み入れた。
月明かりが薄く差し込む中、周囲は静まり返り、不気味な雰囲気が漂っていた。
しかし、彼女の心の中には、直也との絆があったため、恐怖は感じなかった。
神社の中央には、奇妙な輪の形をした石が据えられていた。
それを見つめると、遥は過去に母がこの神社に訪れた話を思い出した。
母にも同じような輪があり、そこで何かの祈りを捧げていたという。
しかし、今でもその意味は知る由もなかった。
好奇心に駆られた二人は、石のそばに近づき、その輪に手を触れてみることにした。
次の瞬間、眩しい光が辺りを包み込み、強烈な引力が二人をその輪に吸い込んでいった。
気がつくと、彼らは全く異なる空間に立っていた。
その空間は、無限に続く闇で覆われ、目の前にはいくつもの輪が漂っていた。
「ここはどこだ?」と直也が不安に駆られた声を上げる。
遥も恐れを感じながらも、「多分、神社の輪が繋いだ場所なんじゃないかな」と答えた。
すると、その瞬間、彼らは周囲から、どこか懐かしい誰かの声を耳にする。
それは彼らの知る者たち、かつての友人や、亡き家族の声だった。
声は、遥たちに絆の大切さを語りかけてくる。
少しずつ、彼らはこの界の正体を理解し始めた。
ここは、生者の思い出が集まり、失われた絆を求めて人々が存在している場所なのだ。
どこかで近くにいる彼らの意識が、直接的な影響を与えていることを知った。
絆を求めて輪に戻ることもできるが、同時にこの輪に引きずり込まれることもあるという恐ろしい事実に気づいた。
「帰りたい…」直也が微かに言った。
遥は周囲の声に魅了されつつ、同時にその恐ろしい気持ちを感じた。
帰るためには、誰かをこの界に呼び寄せる必要があるのだ。
彼は、自分をこの場所から解放するために、誰か他の存在を引き入れなければいけないという選択を迫られていた。
「私たちの絆は…絶対に切れないって信じてる。だから、一緒に帰ろう」と遥は勇気を振り絞って直也に言った。
彼の目は一瞬驚き、次第に強い決意が溢れてきた。
「かけがえのない絆を信じて、必ず帰る」と直也は言い、彼の手をしっかりと握った。
彼らは再び輪に手を伸ばし、一緒に「帰りたい」と叫んだ。
その瞬間、光が満ち、彼らは引き寄せられるようにその輪の中へと入っていった。
次の瞬間、目を開くと彼らは元の神社の境内に立っていた。
月明かりが優しく差し込み、静まり返った境内。
無事、二人は帰ることができたのだ。
振り返る神社の奥で、何かが彼らを静かに見守り続けているような気配を感じた。
生と死、絆の強さを知った遥は、直也との関係がさらに深まったのを感じた。
「私たちは絶対に大丈夫だよね」と微笑み合い、彼らは手を繋いで神社を後にしたのだった。