「失われた春の魂」

温かい春のある日、主人公の佐藤俊介は、街から離れた温泉地に友人たちと共に小旅行に出かけた。
友人たちと楽しい時間を過ごし、夕食を終えた後、温泉街の静かな雰囲気に魅せられていた。
しかし、俊介には一つ気になることがあった。
それは、近くの山に住むという「失われた魂」の伝説だった。

その夜、俊介は他の友人たちが酒を酌み交わしている間、ふと気になった山へと一人で足を運んだ。
星空が美しい夜、月明かりの中で山を登ると、前方に古びた神社が見えてきた。
その神社は、一見儚げで、なぜか引き寄せられるものがあった。
俊介は心のどこかでこの神社に何か特別なものを感じていた。

神社の境内に近づくと、周囲が急に静かになった。
のんびりとした温泉地の夜とは対照的に、ここだけは異様な緊張感が漂っている。
俊介はそのまま進み、境内に立ち尽くした。
すると、ふと耳元で誰かの囁く声が聞こえた。
「来てはいけない…」その声は不安を呼び起こし、俊介の心臓は速く鼓動した。

しかし、好奇心が勝り、俊介はその場所を離れずにいた。
どうしても確認したいという思いが強くなり、神社の中に入ると、小さな祭壇の前に立ち尽くした。
そこには無数の供え物があり、安置されている小さな石像がぎょろりとした目でこちらを見つめていた。
一瞬、彼の意識が揺らぎ、俊介はその場から逃げ出したくなったが、なぜか足が動かなかった。

急に強い風が吹き、俊介は思わず目を閉じた。
次の瞬間、風がやむと共に、境内の風景が変わっていた。
目の前には、白い衣を纏った女性の姿が現れ、それはまるで自分に語りかけるように見えた。
彼女の目は悲しみに満ちており、心の奥底にある痛みが伝わってくる。
そして、その声はさっきの囁きと同じだった。
「私は失われた魂。でも、あなた自身の魂も失われてしまう。」

俊介はその言葉の意味がわからずにいたが、胸がザワザワと痛む感覚が続いた。
思わず目を逸らした彼は、周囲の景色が変わり、古い木々の間から人々の声が聞こえてきた。
かつてこの地に住んでいた人々の姿が、彼の記憶に焼き付いていた。
それは、温かくも切ない思い出のようだった。

俊介はその時、はっきりと感じた。
彼らの魂が何かを訴えている。
失われた魂になってしまった理由を知りたいと願っているのではないかと。
それぞれの者が何かを求め、この神社に集まっているのだ。
俊介は、彼女の目を真っ直ぐに見つめ返した。
「どうして、あなたたちはここにいるの?」

その言葉と共に、彼の心の中にあった疑問が、淡い光に包まれて解けていく。
しかし、その瞬間、俊介の周囲から溶けるように人々の姿が消え、温泉地の静けさに戻っていった。
何も見えなくなった彼は、ただ自分の存在を掴もうとしたが、どこにいるのかもわからなくなっていた。

そして、野外での時間が経つ中、俊介は今もその場所にいるような気がしていた。
心の中に流れ込む感情は、確かに失ったものを思い出させる温かさであった。
しかし同時に、失われた魂の中で何が起きたのかを知ることはできずにいた。
彼の心に沁み込んだ感覚は、これからの旅路をただ温かくするだけのものだった。

彼は神社を離れ、友人たちの元へと戻った。
空には星々が瞬き、それがあの日の温泉地の思い出と交差した瞬間、彼の心の奥深くに刻まれていた。
今も消えない、その不気味でありながらも温かい、魂の声が耳元で流れ続けているようだった。

タイトルとURLをコピーしました