ある夏の日の午後、小さな村に住む木村翔太は、山の奥深くにある古い神社の存在を聞きつけた。
この神社には、別れた恋人の姿が再び現れるという噂があった。
翔太はその噂に興味を持ち、感情が揺れ動く中で、彼自身が過去に別れを経験したことを思い出した。
翔太は、気持ちを整理するために神社を訪れることにした。
山道をひたすら歩き、やっと辿り着いた神社は、薄暗く静まりかえっていた。
そこには、朽ちた鳥居や苔むした石道があり、かつての繁栄を想像させる痕跡が残っていた。
しかし、不気味な雰囲気に包まれていることも確かだった。
神社の境内に立つと、翔太は思い出を振り返った。
失った恋人、咲の笑顔、そして彼女との別れがどれだけ心を痛めたかを。
翔太は心の奥で、咲に再会したいという思いが強くなっていくのを感じていた。
それと同時に、恐れも芽生えてきた。
神社に入ると、昼間とは思えないほどの暗さが彼を包み込んだ。
翔太は心臓が高鳴るのを感じながら、境内を探索していると、耳にしたことのない低い声が響いてきた。
「翔太、ここにいるの?」その声は彼の名前を呼ぶものだった。
しかし、誰もいないはずの神社で、翔太の心はざわついた。
無意識に、翔太は声の主を求めてその奥へと進んでいった。
すると、闇の中から一筋の光が差し込んできた。
その光はまるで彼を導くかのようで、翔太は足が向いてしまう。
光の先には、咲の姿があった。
彼女は微笑んでいて、「翔太、私を見つけてくれたのね」と言った。
一瞬、翔太の心は躍った。
咲と再会できたのだ。
しかし、目の前にいる彼女の顔には、どこか不自然な影が差し込んでいた。
それでも翔太は、その影に気付かないふりをした。
「咲、会いたかった。別れたことがまだ辛い」と彼は言った。
咲は翔太の言葉に優しく微笑んだが、その瞬間、翔太の心に恐れが広がった。
光が徐々に消えていくにつれ、咲の表情はどんどん変わっていき、彼女の目は不気味な光を帯びていた。
翔太は恐怖を覚え、後ずさりをした。
咲は言った。
「私を失ったのは、あなたのせい。だから、私を求めてここに来たの?」
翔太はその言葉に動揺した。
「そんなことない!本当に愛していたのに…」彼は過去の別れを思い出し、咲を失った痛みがどれほど深かったかを再確認した。
しかし、影に包まれた咲は、彼に迫りくる。
「あなたも、私のように失ってしまうのよ!」
翔太はその瞬間、背筋に冷や汗が流れた。
彼の前に現れたのは、彼が知っている咲ではなかった。
彼女は失われた過去の影だった。
翔太は、彼女の言葉が示す恐ろしい真実に気づいた。
「恋を求め、その代償を支払う覚悟があるのか?」
翔太は混乱し、神社から逃げ出そうとした。
しかし、闇に包まれた咲がその行く手を阻んだ。
彼はその後、彼女が手を伸ばすのを見た。
翔太は自分が失ったものを恐れ、目の前の咲に背を向ける勇気が出せなかった。
結局、翔太はその神社から立ち去ることができず、彼の心の中に漠然とした影が宿ったまま、永遠に彷徨う運命に刻まれることとなった。
失ったものを求め続ける彼の心は、次第にその闇の中で飲み込まれていった。