小さな村に住む少年、健二は好奇心旺盛で元気な性格だった。
村は古くからの伝説や言い伝えが数多く残る場所で、健二はそれらを聞くたびにワクワクしていた。
特に彼が興味を持っていたのは、村の外れにある「地の洞窟」と呼ばれる場所だった。
その洞窟には、実在しないと言われる神秘的な生き物が住んでいるという話があった。
ある日、健二は友人の真司と一緒に、地の洞窟に探検に行くことを決めた。
二人はその日、村の老人から聞いた話を思い出していた。
「洞窟は夜になると、なにか不気味な声が聞こえる」と言われていたことを。
日が沈むと共に、二人の胸はドキドキと高鳴った。
しかし、彼らは恐れずに洞窟を目指した。
洞窟の入り口に到着すると、健二は真司に言った。
「どうする?入るか?」真司は少し戸惑いながらも、「行こう」と頷いた。
彼らは両手に懐中電灯を持ち、慎重に洞窟の中へと足を踏み入れた。
ひんやりとした空気が彼らを包む。
洞窟の奥へ進むにつれ、壁に触れると冷たい水が滴り落ちていた。
しばらく進むと、突然、何かが健二の足元をよぎった。
「な、何だ!」真司が叫ぶ。
健二は動きを止め、懐中電灯をその方向に向けた。
すると、何か黒い影がすぐに消えてしまった。
二人は一瞬、動けなくなったが、好奇心が勝り、さらに進んでいった。
洞窟の奥には、小さな空間が広がっていた。
その中央には、奇妙な模様が描かれた石が置かれていた。
健二は興味を持ち、その石に近づいた。
「これ、なんだろう?」とつぶやくと、不意に石が光り出した。
二人は驚き、後退った。
その瞬間、洞窟の内部から低く響く声が聞こえてきた。
「実を求めよ、実を見よ」と。
「何か試練があるのか?」と真司が言うと、健二は不安に思いながらも憧れていた。
彼らは石の周りを見回したが、他には何もない。
ただただその奇妙な声だけが空間に漂っていた。
声が続ける。
「何かを得たいのなら、何かを失う覚悟が必要だ。」
その言葉を聞いた瞬間、二人はその意味に気づいた。
村で語り継がれる伝説にある通り、何かを得るためには自らの大切なものを失わなければならないという覚悟が求められているのだと。
健二は思い悩んでいた。
果たして、自分たちは何を失う覚悟があるのだろうか?その時、真司が「帰るぞ!」と言って、後ろを向いた。
しかし、健二はその場に踏みとどまって言った。
「待って、もっと知りたい!」真司は不安そうに振り返り、「そういうことじゃない!」と叫んだが、健二はそのまま石に触れる勇気を持つことにした。
手を置くと、石が再び光り始めた。
そして、目の前に現れたのは、失われた無数の思い出の影だった。
健二の大好きだった父と母の姿も見え隠れしていた。
その瞬間、冷たい恐怖が彼を包み込む。
失った記憶に手を伸ばそうとすると、急に全てが静まり返り、周囲は暗くなった。
失う覚悟を持てという声が再び響く。
「お前は何を失うのか、考えよ」と。
健二は混乱し、恐怖に打ちひしがれた。
確認することをやめ、真司の元に駆け寄り、一緒に洞窟を後にした。
しかし、二人はすでに何かを失ってしまった。
あの時の好奇心と思い出の数々が。
村の外れを離れ、ただ静かにその場を去った二人は、決して戻ってくることのない場所があることを思い知った。
もう、あの洞窟にまつわる伝説を語り継ぐことはできない。
彼らは何かを得ることはできなかったが、確かに失われた大切な記憶を抱えて帰ってきた。
ただ、記憶は薄れ、いつかその存在さえ忘れ去られてしまうのかもしれない。
洞窟の声は、彼らの心の奥底に、ずっと残り続けるだろうと、彼らは思った。