ある町の外れに位置する古びた商業ビル。
そのビルは廃墟と化して久しく、人々はその中に何があるのか、誰も関心を寄せることはなかった。
しかし、ある晩、友人たちと集まった夏美は、ふとそのビルのことを思い出し、肝試しを提案した。
友人たちは最初は戸惑ったが、好奇心に駆られ、彼女の後を追った。
「確かに、あのビルには噂があるみたいだね。」友人の達也が言った。
「寝ている間に、失ったものが夢の中に現れるって。」
夏美は、何か特別なものを求めているような目をして、その話を興味深く聞いていたので、夢の中で見えるという「失ったもの」が何なのか、気になって仕方なかった。
仲間たちはビルの前に到着した。
月明かりの下、錆びたドアが不気味に揺れている。
恐る恐る中に入ると、埃が舞い、静寂に包まれていた。
彼らは懐中電灯の明かりを頼りに、少しずつ内部を探検し始めた。
「このビル、ほんとに不気味だな…」友人の由紀が眉をひそめて言った。
周囲には雑然とした段ボールや壊れた家具が散乱していた。
その中でも特に目を引いたのは、一つの古い商材のパッケージだった。
「これ、なんだろう?」
近づいて見ると、それは古いお菓子のパッケージで、懐かしさを感じさせるデザインが施されていた。
だが、そのお菓子には異様なまでの埃がかぶっており、誰も手を出そうとはしなかった。
しかし、興味を惹かれた夏美は、そのままパッケージを手に取ってしまった。
「これ、なんか気になるね。」彼女は言った。
すると、突然、彼女の目が遠くを見ているかのように、ぼんやりとし始めた。
仲間たちは驚いたが、夏美はパッケージを持ったまま、彼女の目の前に横たわる光景に心を揺らしているようだった。
その瞬間、全体が淡い光に包まれ、周囲の景色が変わり始めた。
廃墟が夢のように透き通るような異世界にモダンな商店街へと変わった。
そこには人々が行き交い、楽しい声が響いている。
「ここは…どこだ?」達也が呟いた。
全員が驚きと戸惑いに包まれている。
よく見ると、夏美だけが吸い込まれるようにその光景に魅了されていた。
「私、見たことある…。」彼女はつぶやいた。
夢の中で、失ったものが現れると同時に、自分がずっと求めていた幸せな日々を思い出していた。
仲間たちはその異なる世界で彼女を引き戻そうとしたが、彼女はまるで別の存在のように、この夢の中で漂っている。
「夏美、戻って来て!」由紀が叫ぶが、夏美はその声を聞くことさえなかった。
夢の中の商業ビルは、まるで彼女の心をさらっていくかのように、美しい景色で満たされていた。
やがて、仲間たちは焦りを募らせ、夏美を助けようと必死になった。
が、夢の中の彼女は、現実の姿を見失ってしまうかのようだった。
「もしかしたら、彼女はこの夢の中にいるのかもしれない…。」達也は言った。
「私たちもその夢の中に入ることで助けられるかもしれない。」
彼は勇気を出してパッケージ触れ、彼らもまた夢の中へと足を踏み入れようとした。
しかし、一歩を踏み出すと、異様な感覚に襲われた。
周囲は急に暗くなり、重い空気が彼らを包み込む。
それからというもの、彼らはその夢の中を彷徨い、夏美を見つけることができず、次第に不安と恐怖が心を蝕んでいく。
彼らはどこから来たのか、どこへ向かうのかも分からぬまま、ただ漂うようにその世界を彷徨うことしかできなかった。
やがて、夢の中の商業ビルが崩れていくような感覚に包まれ、彼らはその中に取り残されることに。
もう戻ることのできない暗闇に飲み込まれていくのだった。
その夜、町の外れに位置する古びた商業ビルは、何もない静寂の中に佇んでいた。
夏美と友人たちの姿は、今やその記憶の奥底に消え、ただ噂だけが人々の間でささやかれている。
夢の中で彼らが求めていたものが、今はただ遠い過去の記憶として残ることになる。