「失われた声の悪寒」

ある静かな夜、深い森の奥にひっそりと佇む廃校があった。
かつては生徒たちで賑わっていた教室も、今では時間の流れに埋もれ、薄暗い影が漂う場所となっていた。
この廃校には、口にまつわる怪談が語り継がれていた。
それは、「失った口」という伝説だ。

その学校にまつわる話はこうだ。
数年前、優秀な生徒だった芳紀(よしき)が、ある日突然失踪した。
彼女は非常に口の堅い性格で、秘密や噂話を決して漏らさなかった。
しかし、芳紀が最後に見つけた友達の秘密、それは彼女の仲間たちに深刻な影響を及ぼした。
友人たちは彼女を裏切り、芳紀を孤立させることに決めた。
そして、芳紀の口を封じるため、無惨な方法で命を奪ったという。

以来、彼女の霊は学校の中を彷徨い続けているという。
芳紀の霊は、かつての仲間の名前を呼びながら、失った口を求め続けているのだ。
同じ声で、同じ質問を繰り返す。
彼女の存在に気づいた者には、必ず恐ろしい運命が訪れると語られていた。

ある晩、友人たちの間に話題が上がった。
それは、芳紀の霊を確かめに行こうというものだった。
報われない逆転を遂げた友人たちは、未だに芳紀の真実に怯えていた。
同じように恐れながらも、その心に甘えを感じていた彼らは、廃校に出向くことにした。

薄い霧がかかる中、古びた校舎の前に立つ五人は、それぞれの心に緊張を抱えていた。
廃校の扉を開けると、中は静まり返っており、忘れ去られた時間が流れていた。
彼らは不安を胸に、芳紀が通っていた教室へと進んでいく。

教室に着くと、何かが不気味に静まりかえった。
彼らは周囲を見渡すと、突然、風が吹き込み、窓が揺れた。
その瞬間、何かが耳元で囁いたような気がした。
彼らは恐怖心に駆られ、正気を失い始めた。
その時、いきなり一人が大声で叫んだ。
「芳紀!私たちを許して!」

その瞬間、教室の雰囲気が変わった。
暗闇から何かが現れた。
かつての芳紀は、無惨な姿で彼らの前に立ち尽くしていた。
口は何もなく、ただ無言で彼らを見つめている。
彼女の目は真っ黒で、憎しみと悲しみが交錯しているようだった。

「なぜ私を裏切るの?失った口を返して…」その言葉は、彼らの心に直接伝わってきた。
彼らは恐れおののき、霊の声に煽られ、地面にひざまずくことしかできなかった。
芳紀は、友人たちに向かって一歩ずつ近づいていく。

「名を呼んで、名を呼んで、名前を返して…」その言葉が響くと、彼らは一斉に叫んだ。
「芳紀!ごめん!許して!」彼女の口には何もないが、その叫びに応えるかのように、芳紀は無数の影と共に包まれていった。
影は彼らの身体を包み込み、逃げようとするが、足が動かない。

「あなたたちも、私と同じように失ってしまうの?」その問いかけが彼らの心を揺さぶった。
彼らは逃げることができず、自らの仲間の裏切りを悔いるしかなかった。
何も言わずに立ち尽くす芳紀の姿は、彼らの恐怖をますます増幅させた。

結局、その夜、廃校から帰った者は一人もいなかったという。
彼らの失った「口」は、芳紀と共に廃校に閉じ込められ、永遠にその恐ろしい真実を抱えて生き続けることとなった。
これ以降、この廃校に近づく者は二度と帰らないという噂が広まり、静寂がその場所に深く根付くことになった。

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