深い森の奥に、誰も足を踏み入れたがらない場所があった。
そこは「墟」と呼ばれ、周囲の村からは忌避されていた。
墟からは神秘的な力が宿るという噂があり、その影響で人々はこの地を敬遠するようになった。
ある日、平凡な大学生の健二は、友人に誘われてその墟を訪れることになった。
彼は好奇心旺盛で、都市伝説やオカルトに興味を持っていたが、実際に墟に足を踏み入れるのは初めてだった。
健二は友人たちと共に現地へ向かう途中、様々な噂話を耳にした。
「ここには夢を操る力があるって言うぜ。悪夢なんかもね」と、友人の一人が言った。
その言葉に健二は興味を持った。
彼にとって、夢は未知の世界を垣間見せる神秘的な存在だったからだ。
墟に着くと、周りは鬱蒼とした木々に囲まれ、不気味な静けさが漂っていた。
友人たちは少し不安を覚えたものの、健二はその奇妙な雰囲気に魅了された。
彼らは空き地を見つけ、そこでキャンプを始めることにした。
夜が更けるにつれ、周囲の暗闇は一層濃さを増した。
健二は焚き火を囲みながら、無邪気に話を続けた。
しかし、引き寄せられるように、彼はふと目を閉じた。
その瞬間、彼の意識は夢の中へと誘われていった。
彼が目を開けると、そこは見覚えのない場所だった。
現実の世界とは全く異なる、不気味で奇妙な空間が広がっていた。
健二は混乱しながらも、その場を歩き回ることにした。
すると、彼の前に一人の少年が現れた。
「君も夢に迷い込んできたのか?」と少年は笑いかけた。
彼の声はどこか懐かしさを感じさせ、健二は不思議と親しみを覚えた。
しかし、その笑顔の奥には、何かしらの陰りがあった。
少年は続けた。
「この夢の世界には、失われた記憶が封じ込められている。もし君がその記憶を取り戻し、現実に帰りたいなら、私と一緒に探しに行こう。」
健二はその誘いに従うことにした。
少年と共に夢の中を旅し、様々な風景を見て回った。
気がつくと、彼の心の奥に眠っていた記憶が次々と浮かび上がり、まるで彼の心を穏やかにしていくかのようだった。
しかし、ある場所にたどり着いた時、健二は異変に気が付いた。
その場所は、かつて彼が大切に思っていた人々の思い出が詰まった場所だったが、何かがおかしかった。
記憶が徐々に消えかけていたのだ。
「どうしてこれらの記憶が失われているの?」と健二は少年に問った。
少年は悲しそうな表情を浮かべ、「この場所は封印されている。夢の中にいる間は、私たちの思い出も守れないんだ。」と答えた。
健二は焦りを覚えた。
「なら、どうすればいい?記憶を取り戻す方法はないのか?」すると、少年は静かに言った。
「夢から目覚めるためには、恐れずに真実を受け入れなければならない。しかし、あまりにも多くの人々がその真実を受け入れられず、夢から出られないまま消えてしまった。」
その言葉を聞いた瞬間、健二は自分自身の思いと向き合うことになった。
彼は心の奥底に潜んでいた恐怖や後悔を思い出し、それを手放すことを決意した。
人々の記憶が消えていくことに心を痛め、彼自身もそんな過去から解放される必要があった。
目を閉じ、深呼吸すると、健二は力強く叫んだ。
「私はこの夢にとらわれない!私の記憶は消えない!」その瞬間、周囲の空間が揺らぎ、光が満ち始めた。
彼は必死に夢の中から抜け出そうとした。
次に目を開いた時、健二は焚き火の周りに戻っていた。
しかし、彼の心は不思議と軽く、記憶に関する恐怖は完全に消え去った。
それ以来、彼は墟に魅了されることもなく、失われた思い出が大切であることを知っていた。
そして、その経験を友人たちと共有しながら、彼らと共に未来を見据えることにした。
こうして、墟の恐怖は彼にとっての過去の記憶に変わっていった。