「夢の原の誘惑」

原の奥深く、緑が濃く生い茂る場所に、小さな村がある。
村人たちは、その場所を「夢の原」と呼び、伝説として受け継がれてきた。
そこでは、夢の中で願いを叶える力があると言われていたが、その代償は恐ろしいものだと知る者は少なかった。

ある夏の夜、高校生の拓也は友人たちと共に冒険しようと決意した。
彼は、夢の原に足を踏み入れることを選んだ。
友人たちは最初は抵抗したものの、拓也の情熱に押されて連れて行くことになった。
「何か面白いことがあるかもしれない!」という軽い気持ちが、彼らを引き寄せたのだ。

原に到着すると、周囲は深い静けさに包まれていた。
ただ、草木が揺れる音と川のせせらぎが心地よく響いている。
拓也たちは、気持ちを高ぶらせながら歩き始めたが、徐々にその静寂の中に不穏な匂いが混ざり込んできた。

「何だろう、この匂い?」と聞くと、友人の圭介が鼻をひくひくさせた。
「なんか、甘ったるいような、変な感じだ。」拓也もまた、それを感じ取った。
夢の原に伝わる噂では、ここに入ると甘い匂いに包まれ、その香りに誘われて夢の中に引き込まれるという。

「信じられないけど、試してみようぜ!」拓也は自信満々に言ったが、心のどこかで不安を感じていた。
その瞬間、友人の一人が呟いた。
「これ、もしかして、夢に引き寄せられる匂いなんじゃないのか?」次第に、他の友人たちもその匂いに影響されていく様子だった。

拓也は匂いに抗うことにした。
「これって、夢の狩人ってやつかもしれない。夢の中で、自分が思い描いていることが現実になる。それには代償が必要なんだ」と自分に言い聞かせながら、少しずつ歩を進めた。
しかし、圭介はそのまま匂いに引き寄せられていった。

彼が姿を消した瞬間、拓也の前に現れたのは、柔らかな光を放つ影のような存在だった。
「拓也、私を見つけて。ここで願いを叶えてあげる。」その声は魅惑的で、拓也を誘うようだった。
「でも、あなたも代償があるのよ」と言う声が、耳の奥に響いた。

拓也は戸惑いながらも、その影に引き寄せられそうになった。
すると、ふと先ほどまでの友人たちの顔が頭をよぎる。
「彼らも、夢の中にいる。助けなきゃ。」その思いが、拓也を奮い立たせた。
構わずその場を離れ、友人を探しに走った。

だが、原には彼らの声は届かず、シュルシュルとした音がその代わりに響いていた。
「拓也、一緒にこっちへ来れば、夢が叶うよ。」再びその声が耳にするが、今度は冷たい冷笑に変わっていた。
「あなたには、選択権がある。私の夢の中で、代償を払うか、ただ引き離されてしまうか。」

拓也は心を決めた。
「私は、友人のためにここにいる。誰も犠牲にはさせない。」すると、影は一瞬驚いたように静まり、次の瞬間、激しい旋風が巻き起こった。
拓也は立ち向かおうとするが、身体がまるで重りのように感じられ、次々と過去の景色が浮かび上がる。

彼の周囲には、失った友人たちの姿が見え、囁き声が響いた。
「拓也、私たちを忘れないで。」その瞬間、拓也の心に宿っていた恐れが消え去り、強い意志が宿った。
「友人を探し出す。それが、夢の原から出る道だ!」

そして、拓也は再び影と向き合った。
「私は、夢の代償なんかに惑わされない!友人を取り戻すために、負けない。」その言葉が響いた瞬間、黒い影が消え去り、元の姿に戻った。

友人たちが目の前に現れ、拓也は安堵した。
「お前、よく戻ってきたな」と圭介が微笑んだ。
彼らは手を取り、共に原を後にした。
甘い匂いも消え、 حلمの代償は二度と彼らを襲うことはなかった。
それから、一緒に歩く姿は、原の静寂の中で輝き続けた。

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