田中健一は、ひとり暮らしの大学生だった。
彼はいつも静かな生活を好み、友人たちとの交流も控えめで、自由な時間を大切にしていた。
そんな健一がある日、古びた小さな書店で一冊の本を見つけた。
「間」というタイトルのその本は、奇妙な魅力を放っていた。
ページをめくるごとに不思議な現象についての記述が続いており、特に「絆」に関する章が心にひっかかった。
興味を持った健一は、その本を購入し、家に戻って読み始めた。
ページをめくるたびに、独特の言い回しと不気味な挿絵に引き込まれていく。
しかし、彼がその内容に没頭しすぎるあまり、時間の感覚がなくなっていった。
ふと気づくと、夜が更けていた。
気持ちが悪くなるほどに、何かに取りつかれているような感覚がした。
その日の夜、健一は本を閉じ、ベッドに入った。
すると、夢の中で目の前に一人の女性が現れた。
彼女の名前は佐藤絵里。
健一は彼女を見た瞬間、何か特別なつながりを感じた。
彼女もまた、どこか不安げな表情を浮かべていた。
「私、ここにいるよ」という彼女の声は耳元で囁くように響き、心を落ち着かせた。
しかし、その後、夢は急に不吉な方向へと変わった。
絵里が消えかけていく様子を見ながら、健一は不安に駆られた。
「何かをしなければ…」そう思った瞬間、夢から目が覚めた。
冷や汗が流れ、彼は急いで本を手に取った。
その日から、健一は毎晩絵里の夢を見るようになった。
彼女はいつも何かを訴えかけてくるが、言葉はしっかりとは聞き取れなかった。
次第に彼は、彼女の存在が自分の生活の一部になっていくのを感じた。
現実と夢の間にある「間」が、彼らの心を結びつけていたのだ。
ある晩、健一は夢の中でついに絵里に尋ねた。
「どうして私のところに来るの？」彼女は静かに答えた。
「私もあなたも、孤独だから…」その言葉に胸が締め付けられる思いがした。
ふと、健一は自分が独りであることに気づいた。
友人たちとのつながりを意識し始め、絵里との絆がその孤独を埋めているのだと理解した。
現実の世界に戻ると、健一は思いきってスマートフォンを手に取り、友人たちに連絡をした。
「週末、みんなで集まらない？」そして、満を持して佐藤絵里の本を友人たちに紹介した。
「この本に何かあるような気がして、みんなにも読んでほしい」と言った。
すると、友人たちは興味を持ち、そのままみんなで本を読み始めた。
それぞれが絵里の存在に興味をもち、夜の間に独自の夢を作り上げていくことになった。
彼らの結束は徐々に深まり、孤独感は薄れていった。
そして、絵里の夢の中の彼女も少しずつ明るい表情を見せるようになった。
その後の夢の中、今度は笑顔で「私たち、会えると思う？」と尋ねる絵里。
健一は思わずうなずく。
「きっと、絆があるから」と答えた。
すると、彼女の姿がこの世にいるように鮮明に感じられた。
夢が溶け合い、彼の心にかけがえのない結びつきが築かれたのだ。
それ以来、健一は過去の孤独な自分を振り返りながら、友人たちとの絆を大切に生きていこうと決めた。
彼は自分の心の中で、絵里に感謝をした。
彼女が現れたおかげで、人とのつながりの大切さを知ることができたのだから。
彼の心の中には、かつての孤独が不気味な影を残していたが、今は温かな光に変わっていた。
