「夢の中の約束」

遊園地にある小さな遊具の中に、古びた木製のブランコが一つだけ存在していた。
そのブランコは、手入れが行き届いていないせいか、全体が少し色褪せて見え、まるで時が止まったかのような神秘的な雰囲気を漂わせていた。
小さな遊園地は日が沈むと静寂に包まれ、そこで何かが起こる気配を誰も感じ取ることはなかった。

ある日、中学生の佐藤健太は、友人たちと遊びに来たその遊園地で不思議な話を耳にした。
「夜中にあのブランコに座ると、夢の中で何かに出会えるらしい」という噂だった。
健太は興味を持ち、友人たちに促されるまま、夜の遊園地に一人で出かけることにした。
月明かりの中、そのブランコが異様に輝いて見えた。

健太は不安を感じながらもブランコに腰を下ろした。
すると瞬間、目の前の景色がぼやけ、まるで夢の世界に引き込まれるような感覚が襲ってきた。
次の瞬間、彼は見知らぬ街に立っていた。
そこはどこか懐かしい雰囲気が漂う場所で、まるで子供の頃に夢見たような光景だった。

道を歩いていると、突然、一人の少女が目の前に現れた。
彼女の名前は木村花、健太が幼い頃から密かに思いを寄せていた女の子だった。
しかし、健太はその少女がもうこの世にいないことを知っていた。
彼女は数年前に不慮の事故で亡くなっていたのだ。

「健太、ここにいるの?遊びに来てくれたのね」と彼女は無邪気に笑った。
動揺しながらも、夢の中での出会いを楽しむことにした健太は、彼女と一緒に遊び始めた。
夢の中では、時間も関係なく、彼女と過ごすひとときが永遠に感じられた。

しかし、夢の中で遊ぶうちに、健太は徐々に不安を感じるようになった。
次第に周囲の色が薄れ、花の表情が曇っていくのを感じた。
「どうしたの、花?」彼は心配になり、彼女に尋ねた。

「私、ここにいることが出来ないの。本当はもっと早く、あなたに謝りたかったの」と彼女の声が重たく響いた。
「あなたが私を助けてくれるのを期待していたけれど、もう遅すぎたの。」その瞬間、健太は彼女が抱えていた深い罪の意識を理解した。

健太は痛みを感じた。
たった一度の事故で、彼女は永遠にこの世を離れてしまったのだ。
彼女の思いを背負っていることに気づくべきだった。
彼は花の手を握りしめ、言った。
「そんなことない、花を失ったことは、僕もずっと心に抱えてきた。だから、償うためにここに来たんだ。」

その言葉が届いたのか、花は微笑んだ。
しかし、彼女の姿は次第に消えかけ、風の中に溶け込んでいった。
「もう一度、夢の中に呼び戻して」と彼女は言い残した。

目を覚ました健太は、心が締め付けられる思いだった。
朝日が差し込み、遊園地は静寂に包まれていたが、彼の心には重い思いが残っていた。
あのブランコは、確かに彼を夢の中で出会わせてくれた。
しかし、健太は今でも彼女が言ったことを忘れてはいない。
「償うことは、自分の心に対する真実を知ることなのだ」と。

彼はその日以降、彼女との思い出を胸に抱きながら、少しずつ前に進むことを決意した。
しかし、時折夜中になると、あの夢の中へ戻ることを渇望する自分がいることにも気づいていた。
あのブランコに座ると、彼女の声が聞こえてくるような気がするのだ。
それは、永遠に続く夢の狭間で、彼女と彼が再び出会うための、優しい約束の証でもあった。

タイトルとURLをコピーしました