静かな夜、東京のとある小さなアパートに住む佐藤という青年がいた。
彼は日々の忙しさに追われる中、最近少し気疲れがひどくなっていた。
夢を手に入れるためにどれだけの犠牲を払ってきたのか、毎日モザイクのように色褪せた日常に押しつぶされそうになっていた。
そんなある晩、彼はいつもと違った夢を見た。
夢の中で、彼は自分の目の前に広がる異世界に迷い込んでいた。
そこは見たこともない美しい風景で、青い空と緑の大地、透き通った川が流れるまさに楽園のような場所だった。
そこで彼は、何かに導かれるように歩を進めた。
夢の中で出会ったのは、古びた廃村だった。
村には時間が止まったかのように人々が暮らしていた。
彼らは笑顔を絶やさず、元気に見えたが、どこか浮き世離れした雰囲気が漂っていた。
村人たちは彼に優しく接し、彼は徐々に居心地の良さを感じ始めた。
しかし、ある晩に佐藤が村の広場で焚火を囲んでいると、彼の前に一人の女性が現れた。
彼女の名前は瑞穂と言い、透き通るような肌と大きな目を持っていた。
彼女は優しげな微笑みを浮かべていたが、その笑顔の裏には何か秘密が隠されているように感じられた。
「佐藤さん、私たちと一緒にこの村に留まりませんか?」彼女は穏やかに誘った。
その時、佐藤の心の中に不安がよぎった。
この村には何かがある。
彼はその感覚を無視し、瑞穂の誘惑に惹かれてしまった。
日が経つにつれて、彼は次第に夢の中での生活にのめり込んでいった。
村人たちと笑い合い、瑞穂との距離も縮まり、まるで彼は現実を忘れてしまったかのようだった。
だが、夢の中で心の奥底に潜む違和感が徐々に顔を出していく。
瑞穂が語るどこか不自然な話、村が持つ心地よさの裏にある陰り。
それが彼を苦しめるのだった。
ある晩、佐藤は決心して村の外に出てみることにした。
そこには見たこともない、薄暗く不気味な霧が立ち込めていた。
村の住人たちが全くいなくなり、彼は一瞬にして孤独を感じた。
瑞穂の声が聞こえた。
「佐藤さん、戻ってきて…」
その声に導かれ、彼は再び村へと足を運んだ。
村人たちが集まっており、瑞穂が祭壇の前に立っていた。
彼女は不気味な微笑みを浮かべ、彼に手招きをした。
「私たちはここで永遠に暮らす運命なの。さあ、選んで…」
その瞬間、佐藤は何を選ばなければならないのかを理解した。
夢の中で彼が享受していた幸福は、実は彼の命を奪うための罠だったのだ。
彼は周囲に目をやった。
村人たちの目は虚ろで、生気のない瞳で彼を見つめている。
彼は恐怖に駆られ、全力で逃げ出した。
目が覚めた時、彼は自分のアパートのベッドの上に横たわっていた。
その瞬間、彼は夢での出来事が現実として起こっていたかのように感じた。
心臓が高鳴る中、彼は夢の中での瑞穂のことが頭から離れなかった。
それから数日が経ったが、佐藤は夢の中の廃村への恐怖が消えなかった。
毎晩、その夢が繰り返され、彼は自己を見失っていく。
村の住人たちが彼を呼ぶ声が耳に残り、瑞穂の笑顔が忘れられなかった。
彼はある決心をする。
「もう夢の中には戻らない」と。
そしてその夜、彼はベッドに横になり、意識を失った。
目が覚めると、目の前には瑞穂が微笑んで立っていた。
夢の中の村、そして彼女のもとに戻るために、彼はもう一度目を閉じることにした。
こうして、佐藤は夢の世界で永遠に終わらない物語の中で生きることになった。
現実の世界など、彼にはもはや必要なかった。
彼は選ばれたのだ。
夢の住人として、生き続ける運命を…