「夢の中の木」

木村健太は、古びた町の外れにある小さな神社の近くに住んでいた。
その神社は、昔から不思議な出来事が起こることで知られていた。
町の人々はその神社を避ける傾向があり、特に夜になると誰も近寄ろうとしなかった。
しかし、好奇心旺盛な健太はその神社を訪れることにした。

ある晩、健太は夢の中で不思議な声に導かれ、神社に立っている自分を発見した。
周囲は静まり返り、月明かりが木々の間から差し込んでいた。
夢の中の健太は妙に落ち着いていて、まるでこれが運命であるかのように思えた。

「お前を待っていた」と、木の根元から声がした。
健太は恐る恐る振り返ると、そこには大きな木が立っていた。
その木は年輪が多く、まるで数百年の歴史を背負っているかのように感じた。
声はその木から発せられていることに気づいた時、健太は驚愕した。

「夢ではなく、ここが真実だ。お前には特別な運命がある」と木は言った。
健太は「運命」と言われても何のことかわからなかったが、その言葉に引き寄せられるような感覚があった。

その日は何も起こらなかったが、翌朝、健太は神社に再び足を運んだ。
木はその場に居続け、夢に見たときと同じように、大きな存在感を持っていた。
しかし、神社の周りには不穏な空気が漂っていた。
健太は周囲を見渡すと、何かが彼を見ている気配を感じた。

その日はいつも以上に静けさが支配していた。
健太が途中で道を逸れ、神社の裏手に回ると、どこからともなく風が吹き始め、木々がざわめいた。
瞬間、健太の視線が木に吸い寄せられた。
その木の根元に広がる土が、まるで何かを埋め込むかのように盛り上がっているのが見えた。
好奇心に駆られた健太は、思わず土を掘り起こしてしまった。

土の中からは古びた木箱が現れ、その中には何かの文書が入っていた。
文書はかなり傷んでいて、読み取るのが難しかったが、そこに書かれていたのは「合の夢」の呪いについてだった。
健太はそれがただの伝説だと知りつつも、興味が心を強く引きつけた。

その日から、健太は夢の中で木と繋がることがよくあった。
木は彼に夢の中で語りかけ、彼の未来について話をするようになった。
しかし、日が経つにつれ、彼の夢は少しずつ不吉なものになっていった。
木に寄り添う影が増え始め、彼を取り巻く闇が深まっていくのを感じた。

ある晩、夢の中で木が「お前はこの夢の続きを知るべきだ」と言った。
その言葉に従おうと思ったが、深い不安が心を支配した。
「運命の解放を果たせ」と繰り返す木の言葉に、健太は恐れを感じつつも、進むことを決意した。

次の日、健太は神社に向かい、木に触れることにした。
すると、強烈なエネルギーが彼の体を包み込み、まるで別の世界に引き込まれるような感覚を覚えた。
急に、彼の目の前に光が現れ、さまざまな映像が流れ始めた。
過去の出来事や、神社にまつわる人々の姿、そしてそれに隠された真実が次々と彼に語りかけてきた。

その中で、彼は「合の夢」が悪しき存在を呼び寄せる呪いであること、そしてそれを解放するためには自身の命を捧げなければならないことを理解した。
しかし、健太は決して背を向けられなかった。
夢の中での出会い、木との絆が彼にとってどれだけ大切なものであったかを思い知らされたからだ。

木は彼を望んでいた。
自らの運命を受け入れ、解放することを。
彼は最後の決意を固め、夢の中で木と鍵を繋げ、運命を引き受ける準備を整えた。

目が覚めると、健太は神社の前に立っていた。
その瞬間、彼の周囲が光に包まれ、全てが静まり返った。
彼は自らの選択を後悔しなかった。
彼は夢の中で見た世界の一部となり、木と共に永遠に生き続けることができるのだと、心の底から理解したのだ。

タイトルとURLをコピーしました