間の村には、昔から伝わる不思議な現象があった。
それは、夜になると周囲の景色がまるで別の世界に変わってしまうというものだった。
村人たちはその現象を「夜の目」と呼び、誰もがそれを恐れていた。
しかし、若き青年の大輔だけは、それに興味を抱いていた。
ある秋の夜、大輔は村の人々が寝静まるのを待ち、勇気を振り絞って外に出た。
月明かりの下、彼は道路を歩きながら「夜の目」を体験しようと心に決めていた。
村は静まり返り、風の音さえも感じられない。
不気味な静けさの中、彼は何かが起こるのを待ちわびた。
すると、そこに不意に光が現れた。
それは村の古びた神社から発せられる青白い光だった。
大輔は興味を引かれ、神社の方へと足を向けた。
神社に近づくにつれ、彼の心は高鳴った。
そこで彼は、神社の境内に古くからある「神の木」と呼ばれる大きな木を見つけた。
それは地元の言い伝えによれば、神秘的な力を持つ木であり、夜になると特別なことが起こるという。
大輔はその木の前に立ち、自らの願いを込めて木に手を触れた。
その瞬間、周囲の景色が歪み始め、まるで悪夢のように変わっていった。
夜の目が開いたのだ。
彼は小さな子供の声や、かすかな笑い声が周りから聞こえるのを感じた。
しかし、それは彼の知っている村の風景とは全く異なっていた。
彼が目にしたのは、かつてこの村に住んでいた人々の姿だった。
彼らは無邪気に遊んでいたり、おしゃべりをしていた。
しかし、どこかおかしなことに、彼らの顔はぼやけていて、はっきりと見ることができない。
大輔は不安な気持ちでいっぱいになった。
「これが夜の目なのか…。」彼は思った。
だが、その瞬間、大輔の背後で「れ」と呼ばれるかすかな音がした。
振り返ると、見知らぬ女性が彼の後ろに立っていた。
彼女の目は大きく、まるで彼をじっと見つめているかのようだった。
大輔は驚いて声を出そうとしたが、声が出なかった。
女性はそのまま彼にゆっくりと近づいてきて、「あなたもここにいたのね」と静かに囁いた。
「君は誰なんだ?」大輔は思わず声を発した。
女性は微笑みながら、「私は間の居住者たちを導く者。かつてこの村で生きた者たちで、今はこの夜の目の中にいる」と話した。
その言葉を聞いた瞬間、彼の心は恐怖でいっぱいになった。
どうやら彼は、夜の目を通じて村の過去に迷い込んでしまったのだ。
大輔はもう元の世界に戻れないのではないかという恐れが、彼を襲った。
「戻りたい…」彼は心の中で叫んだ。
彼女はそれを聞いたのか、ゆっくりと頷きながら言った。
「戻りたかったら、あなたの心の奥深くにある罪を贖わなければならない。この村の覚えているものたちの思いを感じて、そして解放してあげることが大切よ。」
大輔はその言葉に戸惑いながらも、目の前で無邪気に遊ぶ村人たちの姿に目を向けた。
かつての村の思い出が心の中で渦巻いていく。
彼はその思いを受け止め、彼らの笑顔のために何かできることがあると信じた。
「私はここにいるみんなを助けたい!」大輔は叫んだ。
その瞬間、神社の境内が光に包まれ、彼の心には不思議な温かさが広がった。
大輔は目を閉じ、その思いを全力で放った。
すると景色がまた変わり始め、次第に彼の周りは元の村の景色に戻っていった。
気がつくと、大輔は神社の前に立っていた。
周りには月明かりと静かな風の音だけが残されていた。
彼は「夜の目」の不思議な体験から何かを学び取ったかのように感じていた。
それは過去の思いを大切にし、未来に生かすことの大切さだった。
次の夜、彼はまたあの神社を訪れるだろう。
そして村の「夜の目」を見守り続けることで、もう一度、あの人たちを思い出すことができることを願って。