夜も更けた学校の教室に、静寂が包まれていた。
月明かりが窓から差し込み、机や椅子の影を長く引き伸ばしている。
そんな中、一人の生徒が遅れて自習をしていた。
彼女の名は佐藤遥、クラスメイトたちが帰った後も、特別な課題に取り組むため学校に残ることにした。
その日はちょうど、学校での「夜の怪談大会」を控えた日だった。
クラスの友人たちから集めた話を元に、彼女は自分のオリジナルの怪談を作るために資料を調べていた。
だが、深夜になるにつれて周囲の雰囲気がどんどん変わっていく。
何かがいる気配を感じ始めた。
遥は、ふと校内の伝説を思い出した。
それはある女子生徒が、自分の親友に裏切られ、学校の屋上から飛び降りたという話。
彼女の霊は未だに校舎に留まり、裏切りを許せずにいるという。
背筋を一瞬寒く感じさせるその話が、耳元で囁かれているかのように感じた。
「大丈夫、ただの噂だよね」と、彼女は自分に言い聞かせるように呟いた。
その瞬間、後ろの廊下からドンという音が響いた。
驚いて振り向くも、誰もいない。
窓の外に視線を向けると、不気味な影が一瞬通り過ぎた気がした。
気を取り直そうとしながらも、心の中の不安が募っていく。
彼女は机の上に置かれた自分のノートを見つめ続けた。
文字が目の前で踊っているように感じられ、集中できない。
もう一度聞こえたかもしれない音に、顔を上げると、今度は明らかに何かが動いている気配を感じた。
彼女は少しずつ教室の中を探り始める。
壁際の影が揺れているのを見つけ、恐る恐る近づいてみる。
そこにいたのは、一人の少女の顔だった。
透き通るような肌、恐怖に満ちた目をした彼女は、まるで遥をじっと見つめているように思えた。
少女の口元が動き、言葉を発しようとしている。
「助けて…」
その言葉は、遥の心に深い恐怖を植え付けた。
まさかと思い、彼女は冷静さを保とうとする。
しかし、少女はそのまま彼女のそばに寄り、まるで自分を認識しているかのように微笑んだ。
その瞬間、教室の温度が一気に下がり、彼女の息が白くなった。
「あなたも裏切られるの？ それとも友達を守るの？」その問いは、遥の心に深く突き刺さる。
彼女は自分の友情について考え、思わず言葉にした。
「私は友達を大切にする。絶対に裏切らない！」
その瞬間、少女の表情が変わり、恐ろしい形相になった。
「本当に？ それなら、私を解放して…。この学校から出たいの。」
遥はその言葉に驚き、心が揺らいだ。
少女の無限の苦しみを理解しながらも、彼女の言葉に何か不穏な影を感じた。
自らの認識を試すように、少女は教室の外を示し、「行こう、行ってその真実を見つけよう」と囁く。
その時、遥は一瞬の決断を迫られた。
果たしてこの少女が本当に助けを求めているのか、それとも別の行動を促しているのか…。
彼女は揺れ動く心のままに、教室を飛び出した。
夕闇に包まれた校内が、彼女に新たな試練を与えようとしていた。
