「夜の公園、揺れる影」

公園は、昼間は子供たちの笑い声と遊具の音で賑やかだが、夜が訪れると静寂に包まれる。
そんなある夜、佐藤直樹は友人たちと一緒に公園へ向かった。
真夜中の涼しい空気の中、星が瞬く夜空を眺めながら、彼らはちょっとした冒険を楽しもうと決めた。

遊具のそばにあるベンチに腰をかけ、直樹はその時ふと思った。
公園は普段なら明るく賑わう場所なのに、今はたったの数人しかおらず、どこか不気味な雰囲気に包まれていた。
彼の心に、かすかな不安が広がっていく。
その不安を他の友人たちは気に留めず、楽しそうに話していたが、直樹はどうしても目の前にあるブランコが気になった。

いくつかの理由から、ブランコはいつも静かに動いているのだ。
誰も座っていないはずのそのブランコが、一定のリズムで揺れている。
直樹は、何かの気配を感じてそのブランコに目を向けた。
「あれ、誰か座っているの?」直樹は思わずつぶやいた。
友人たちは笑って直樹をからかう。
「あんなの、ただの風だろ?」と。
しかし、直樹にはそれが単なる風でないことを確信させるような感覚があった。

しばらくして、友人たちが冗談を言っている中、サッカーをしていた男子が途中でボールを失い、ブランコのところへ向かった。
直樹はその男子がブランコに近づくのを見て、緊張感が高まった。
何かが起きるのではないかと彼は予感していた。
すると、その瞬間、ブランコが突然大きく揺れ始め、その男子の顔が驚愕に歪んだ。

「やばい、ちょっと止まれ!」男子は慌てて後ずさり、ブランコから距離を取ろうとしたが、ブランコは一向に止まらなかった。
その様子を見た直樹は、「大丈夫だ、何かの故障だ」と自分に言い聞かせながら、震える手で友人たちを見つめた。
しかし、誰もその異常に気づいていないようだった。

彼の心の中で「逃げるべきだ」という声が響く。
公園から出た方がいいのではないか、そう思った直樹は友人たちを引き連れようとした。

「みんな、ちょっとおかしいから帰ろう!」直樹は叫んだ。
しかし、傍にいた友人たちの目は、そのブランコに釘付けになっていた。
「あれ、すごい!見て見て!」その言葉に、直樹の胸は不安でいっぱいになった。
「みんな、気をつけて!」と警告しながらも、友人たちの声がますます大きくなった。

そして次の瞬間、ブランコに乗っていた存在が明らかになった。
薄暗がりに現れたその影は、思いもよらない形で直樹の目の前に立った。
かすかな月明かりの中に浮かび上がるその影は、人間の形をしているが、微妙に歪んでいる。
影は静かに直樹の方を向いた。

心臓が高鳴り、全身が凍りつくような感覚に襲われた直樹は、無意識に後ずさりした。
「逃げろ!」と思った瞬間、周りの人々がその苦しみを感じ取ったかのように、その場から一斉に逃げ出した。
誰もが何かに恐れを抱き、錯乱したかのように走り出した。

直樹は、過去の記憶が蘇りながら、その影から逃げ続けた。
彼は自分の足元に目をやり、自分だけがあのブランコの夢に飲み込まれたのではないかと思いながら、必死に公園の外へと走った。
振り返ることができないまま、影を振り切るように逃げ続けた。
周りの友人たちもそれぞれに逃げたが、影に見入っている者もいた。

果たして影との関係は、彼らの運命を変えるようなものだったのか。
全てを放り出して逃げた直樹の心には、後悔と恐怖が渦巻いていた。
公園を離れた直樹はその影が何だったのか、次第に思い出すことができなかった。
ただ、あの夜の出来事が、心に深い傷を残したのだけは確かだった。

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