深い森の奥にひっそりと佇む小さな園があった。
かつては賑やかな子供たちの遊び場だったが、今は誰も訪れなくなり、荒れ果てた姿を見せていた。
その園の真ん中には古びた木製のベンチがあり、その周りには長い間手入れされていない花々が咲き誇っていた。
しかし、その美しさの背後には、何か異様な空気が漂っているようだった。
ある日のこと、若い女性の佐知子が散歩をしていると、ふとその園の入口に目を留めた。
彼女は好奇心に駆られ、庭に足を踏み入れた。
草が生い茂り、見るからに手を加えていない感じがしたが、なぜかその場に心を惹かれたのだ。
彼女は微かな甘い香りに誘われるように、園の奥へと進んでいった。
その時、ふと彼女の視界の端に、何かがチラついた。
目を凝らすと、そこには一匹の狐が座っていた。
見た目は普通の狐だが、目は異様に光っており、どこか不気味な雰囲気を放っていた。
佐知子は思わず立ち止まり、狐を見つめた。
「こんな場所に、どうして狐がいるのかしら？」彼女は心の中で疑問を持ちながら、少しずつその狐に近づいていった。
狐はじっと彼女を見つめ、まるで何かを伝えようとしているかのようだった。
彼女はその瞬間、不思議な感覚に襲われた。
「この狐、ただの動物じゃない。何か特別な力を持っているかもしれない。」その薄暗い園の雰囲気と相まって、恐怖と興味が彼女の心に渦巻いた。
「お前は、この園を守っているのか？」佐知子は思わず呟いた。
すると、狐は首を傾げながら、かすかに唸った。
その瞬間、彼女の周囲が歪み、目の前の景色が急に壊れ始めた。
古びたベンチが崩れ、周りの花々がしおれていく。
彼女は驚き、思わず後ずさりした。
「待て、何が起こっているの？」佐知子は混乱し、狐に助けを求めるように目を向けた。
狐はその場に静かに座り、まるで彼女の動揺を楽しむかのように見えた。
「お前はこの園に魅入られている。だが、壊れゆくのは、この場所だけではない。」狐の目が不気味に光り、佐知子はその言葉が何を意味するのか理解できなかった。
彼女の心には、不安と恐れが広がっていった。
何かが壊れていく感覚。
それは、心に潜む何かが砕けていく音のようだった。
佐知子は逃げようと園の出口へと向かったが、足が重く感じ、進むことができなかった。
他の場所からも彼女の意志が壊れていくのが分かった。
恐怖の中で立ち尽くしながら、狐の存在がどんどん近づいてくる。
狐は静かに彼女の心の奥に潜り込んでいき、彼女の過去を垣間見ているかのようだった。
その一瞬、彼女は自分の恥ずべき秘密が暴かれていくのを感じた。
「お前も、壊れるべき存在なのだ。」狐の声が響く。
佐知子は自分の過去と向き合う羽目になり、心が引き裂かれるような苦しみを覚えた。
彼女の心の奥深くに隠された罪悪感や後悔が、まるで狐の仕業のように次第に明るみに出ていった。
気がつけば、園は元の美しい姿を取り戻していた。
佐知子は狐に見据えられ、動けないまま、現実と幻想の狭間に立たされていた。
その時、狐は彼女に近づくと、小さな声で囁いた。
「お前が壊れなければ、この場所も永遠に荒れ果ててしまう。選べ。」
佐知子は心を決めることができなかった。
彼女の心は、恐れと痛みの間で揺れ動いていた。
すると、狐は消え、その場には静寂だけが残った。
彼女は、まだ壊れかけた心を引きずりながら、出口へと続く道を見つめていた。
果たして、彼女自身の選択がこの園にどのような影響を与えるのか、彼女にはもうわからなかった。
