静かな山里に、一つの古びた家があった。
その家は昔、若い夫婦と彼らの一人息子が住んでいた場所だったが、今は誰も住んでいない。
夫婦が病に倒れ、息子は行方不明になってからというもの、村人たちはその家を恐れ、近づくことはなかった。
ある晩、村の若者である健太は、友人たちと肝試しをすることになった。
その家の存在は噂として広まっており、怖い話がたくさん語られていたが、彼はその中にあった「絆」の話を知っていた。
人々によれば、家族が強い絆で結ばれている限り、その家には危害は及ばないというものだ。
この言い伝えを信じ、彼は意を決して家に向かった。
月明かりの下、健太はその家に近づいた。
荒れた庭には枯れた花があり、窓はひび割れ、かつての活気が失われた様子だった。
彼はドアをノックし、小さな音を立てた。
すると、古びた木のドアがきしむ音とともに開いた。
中は暗く、不気味な雰囲気が漂っていた。
健太は、少しずつ中に入っていくと、ふと床に落ちている古い写真に目が留まった。
それは若い夫婦と小さな男の子が写ったものだった。
彼はその家族の姿から目が離せず、しばらく見つめていた。
何か不思議な感覚が彼の心を突き動かす。
彼は「健太」と自分の名前を声に出して呼んでみたが、返事はなかった。
その時、家の奥からかすかな声が聞こえた。
「私たちを忘れないで…」それはかつての夫婦の声のようだった。
彼は恐れを抱きながらも、声のする方に進んでいく。
暗い廊下を進むと、廊下の突き当たりに一部屋があった。
ドアは少しだけ開いていた。
健太は部屋に入ると、そこにはほのかな光が差し込んでいた。
驚くべきことに、部屋には家族の絵が描かれた壁があり、彼を見つめる目たちの温かさに胸が締め付けられた。
彼の心の中に、彼らとの絆を感じる瞬間が訪れた。
しかし、その直後、部屋の空気が変わり、裂け目が現れたかのように壁が崩れ始めた。
彼は驚いて後退したが、気がつくと部屋の中に一人の少年が現れた。
「僕、帰りたい…でも、家族が壊れたから…」その少年は自分の足元に立ち尽くしていた。
「君は、ここにいたのか?」健太は思わず尋ねた。
少年は小さく頷いて、「捨てられた絆が消えてしまった。家族はもういないから…」と答えた。
健太はその少年に心を痛めた。
彼の心の中に生まれた絆の感じは、彼だけのものではなく、彼とこの少年のために存在していたのだ。
彼はこの家族を救う方法を考え始めた。
「君の家族のことを、僕が伝えてあげるよ。みんなが忘れないように、君のことも…」
少年は不安そうに彼を見つめた。
「でも、どうやって…?」
「みんなで絆を取り戻そう。僕が君のことを伝え。君の家族がどれだけ大切な存在だったのかを、みんなが知れば、きっと君も解放されるよ。」
その瞬間、家の中に温かい光が溢れ、家族の絵たちも微笑みを浮かべているような気がした。
健太が語り始めると、家の空気は変わり、絆が徐々に力を取り戻していく。
そして、全てが終わった時、少年は微笑みを浮かべて言った。
「ありがとう…もう大丈夫だよ。」
家の崩れた壁が修復され、少年の姿は消え、健太は外に出てきた。
彼の心には、今まで感じたことのない温かさが満ち溢れていた。
彼は村に戻り、この奇跡を伝え始めた。
人々の心に絆が生まれ、家族の絆を忘れずに生きることの大切さを訴えていくことになった。