「墟の祟り神」

静かな夜、村の外れにある古びた墟(まる)で、私たちは肝試しをすることにした。
参加者は友人の太郎、次郎、そして私、花子の三人。
墟の周りには、長い間忘れ去られた神社の遺構が残っているという噂があった。
その神社は、昔の村人が深い信仰を寄せていた場所でもあった。

「怖いな、ほんとに何か出るのか?」と次郎が呟いた。
彼の声は怯えていた。
太郎はそんな次郎を見て、意地悪く笑った。
「大丈夫、何もないよ。話に聞くのはただの噂さ」だが、彼自身もその言葉に自信がなさそうだった。

私たちは夜の墟に足を進めた。
月明かりに照らされた道は静まり返っており、まるで時が止まったように感じる。
墟の中に足を踏み入れると、どこか異様な空気が漂っていた。
湿った土の匂いが鼻を突き、心の奥に冷たいものが走る。

「ちょっと待って、なんか変だ」と次郎が言った。
墟の奥からは、何かしらのささやき声が聞こえてくる。
私たちはそれを無視して進んだが、その声は徐々に明瞭になっていった。
「ここに来て、私を見つめて…」それは、かつての神社に住んでいた祟り神の声だという噂があった。

突然、太郎が立ち止まり、真っ白な顔で言った。
「何かいる、見てみろ!」彼の指さした先には、ぼんやりとした人影が立っていた。
その姿は曖昧で、まるで霧の中に溶け込むようだった。
私たちは恐怖に戦きながらも、目を離せなかった。

「見てはいけない、信じちゃダメだ!」次郎が叫んだ。
しかし、その声はすでに虚しく響くだけだった。
影は少しずつこちらへと近づいてくる。
「私を解放して…信じてほしい…」その言葉は、沈んだ声でこだまし、私たちの心に直接響いてくる。

「逃げよう!」私が叫ぶと、次郎は信じられない様子ですぐに動き出した。
太郎も慌てて振り返り、私たちは一斉に走り出した。
しかし、背後から影は追いかけてくる。
恐怖心が足を重くし、動けない自分に苛立ちを覚えながらも、二人に必死でついて行った。

墟を抜けると、私はふと振り向いた。
影はまだそこに立っていた。
その眼差しは、私たちの心を見透かしているようだった。
意識が遠のく中、私の口から一つの言葉が漏れた。
「ごめんなさい…」

その瞬間、静けさが戻り、影の姿は消えた。
私たちは急いで村に戻り、安堵の息をついた。
しかし、心には深い傷が残った。
あの声が私たちを呼び続け、まるで念が絡みついているように感じたのだ。

数日後、私たちは墟のことを忘れようとしたが、あの影の声が時折耳に残るのだった。
次郎は特に敏感になり、「もう行きたくない。あの場所は危険だ」と怯えるように言った。
しかし、太郎の心にはまだ何かが引っかかっていた。
「でも、何か信じるものがあるかもしれない。真実を確かめたい」と。

その日から、私たちは少しずつ距離を置くようになった。
太郎は墟について調べ始め、次郎は恐怖に囚われて逃げ込み、私は二人の様子を見ているうちに何もできなくなってしまった。

そして、ついに太郎が墟に戻る決心をした。
彼は神社の遺構に向かい、その姿はもう誰も見たことがなかった。
私と次郎は不安を抱えながら、ただ彼の帰りを待つしかできなかった。
そして、夜が明けるとさらに恐ろしいことが起きた。
太郎の姿は見当たらない。

私たちは恐れ、苦しみながら手がかりを探し始めた。
しかし、墟の空気は変わり果てていた。
もう何も信じられず、一体何が真実なのかを探し続ける日々が始まったのだ。
人々の信仰と思い出が交錯する墟、その奥に潜む謎が、今も私たちを見つめ続けているのだった。

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