藪の奥にひっそりと佇む「墟」は、どこか神秘的な雰囲気を漂わせていた。
古びた木々が覆い茂り、光が差し込むこともないその場所は、村人たちから忌避される土地であった。
特に、満月の夜には何かが目を覚ますと言われ、その時期には近づく者は誰もいなかった。
その墟の奥深くには、忘れられた伝説が息づいている。
ある日、若い男の名は健太。
彼は仲間たちと共に、この墟の真相を確かめることにした。
「皆、大丈夫?怖くない?」と友人の大輔が心配して尋ねる。
「大丈夫だよ。怖い話が好きなんだ。面白いことがあるかも」と健太は自信を見せた。
その晩、六人は墟へ向かい、満月が顔を出した途端、突如として静寂が支配した。
彼らが墟の入口に立ったとき、冷たい風が背筋を撫で、踏み込むことにためらいを感じさせた。
彼らは心を一つにし、森の中へ足を進めて行った。
やがて、彼らは墟の中心に辿り着いた。
そこで出会ったのは、黒い毛並みを持つ狼であった。
しかし、その狼は一見普通の狼とは異なり、しなやかな体躯にどことなく神秘的なオーラを漂わせていた。
狼は健太たちをじっと見つめ、その目は人間のように知性を宿しているようだった。
仲間たちは恐怖に震え、逃げ出そうとしたが、健太は立ち尽くしていた。
「大丈夫、何もしない」と彼は狼に語りかけた。
狼は不思議とその言葉を理解したかのように、低い唸り声を上げて、その場に留まった。
健太はその謎めいた生き物に魅了され、前に進み出た。
「君は、何者なんだ?」
狼は耳をピンと立て、まるで健太の問いに応えるかのように、吠えた。
その瞬間、周囲の空気が一変し、まるで時が止まったかのように感じられた。
彼らの目の前に、まばゆい光が現れた。
健太の目には、風景が変わり、満月の光が墟の中で鮮やかに描かれ、多くの人々の姿が見えた。
それは、古の時代の村人たちが穏やかに暮らす光景だった。
「これは、命の始まりか?」大輔は驚きの声を上げた。
周囲にいた仲間たちもその光景に目を見張っていた。
彼らは続けて、村人たちの生活を見つめた。
愛し合い、助け合い、平和に生きる姿を目の当たりにし、彼らの心に暖かさが広がった。
「どういうことなんだ?」健太は狼に問いかけた。
狼は静かに健太を見つめ返し、どこか懐かしげに彼を見た。
その目の中には、長い間村を見守ってきた多くの命の物語が詰まっているように感じた。
「和を持つことが、この墟の神秘だ」と、健太は思い至った。
狼はその言葉を理解したかのように、低く唸ると姿を消してしまった。
健太は仲間たちに驚くべき光景を伝え、その生命の奇跡を共有した。
彼らは互いの絆を感じながら、この墟の中で、忘れかけていた「和」を思い出していた。
月明かりが冷たく照らす中、健太は心の奥で、この経験をずっと忘れないと誓った。
不思議な狼のことも、墟で見た景色も。
仲間たちの姿も、この命の始まりと着実に結びついていた。
そして、彼らは恐れを超え、新たな一歩を踏み出すことができたのだった。