「墟に響く子守唄」

昔、北海道の片隅にある小さな集落に、忘れ去られた墟(まうら)があった。
この場所はかつて、とある村人たちが住んでいたが、強い嵐や干ばつ、そして疫病により、全ての人々が失われてしまったという悲しい伝説が語り継がれていた。
墟は、かつての栄華を知る者がいなくなり、ただ静かに佇むだけの存在となっていた。

村の若者たちは、そんな墟に肝試しに出かけることが流行っていた。
その中でも特に大胆だったのが、健太という男の子と、一緒に行動することが多い友人の優子、太郎、そして灯花の四人であった。
彼らは仲の良い友人同士で、夜の訪れを待ちわびていた。
ある晩、彼らは墟での心霊スポットについての噂を耳にし、それを確かめるために出かけることに決めた。

夜が深ぐなり、月明かりのもとを歩く道すがら、彼らは話を弾ませていた。
しかし、墟に近づくにつれ、空気は次第に重くなり、静けさに包まれていった。
行く手には、崩れかけた家々や朽ちた祭壇が見え、かつての人々の生活の跡が残っていた。
健太は友人たちに、「ここが伝説の場所か…」と呟いた。

彼らの足元には、叢草や落ち葉が積もり、夜の闇が深く、どこか不吉な気配が漂っていた。
健太は懐中電灯をかざし、周囲を照らすが、何か異様な感覚が胸を締め付ける。
突然、周りの空気がざわめき、冷たい風が吹き抜けた。
優子がその異変を感じ取り、「ここ、何かがおかしい…」と声をあげた。

その瞬間、健太の懐中電灯が flicker (ちらつき)始めた。
電池が切れそうなのかと思ったが、彼は心のどこかで、それがただの故障ではないことを感じていた。
周りの木々がざわざわと音を立てる中、太郎が「早く帰ろう」と言い出した。
しかし、その言葉は、返事を待たずして風にかき消された。

灯花は不気味に笑って言った。
「私たち、何も知らないのかも。でも…放置されたこの墟が、何かを求めているんじゃない?」その一言が、皆の心に恐れを与えた。
墟で失われた村人たちが、今も残りたいと思っているのかと思うと、鳥肌が立った。

その時、彼らの背後で足音が聞こえた。
振り返ると、何もない空間に人影が見えた。
小さな子どものような姿で、座り込んでいるが、顔は見えない。
健太は勇気を振り絞って近づいた。
「君は、誰?」

その子は顔を上げた。
心臓が止まりそうになる。
目は虚ろで、何かを求めるような視線を送り、口から何かを呟いていた。
「たすけて…放して…私たちを…」その言葉が、彼らの耳に響きわたる。
そこにいるのは、かつて墟に住んでいた村人の魂だった。

逃げ出したい気持ちを抑え、彼らはその場から立ち去ろうとしたが、心の中には喪失感が宿っていた。
亡き村人たちの思いを感じながらも、彼らは恐怖に震え、何もできずにそこに留まっていた。
気がつくと、一瞬の静寂が訪れた。
電気も消え、何も見えない暗闇の中、彼らの身の回りに圧倒的な存在感を感じた。

健太は一歩踏み出し、周囲の気配を感じ取った。
「この場所を、放っておくわけにはいかない…」自分が何を引き起こすつもりなのか、恐れながらも希望を抱いていた。
だがその一歩は、墟に残された村人たちとの接点に過ぎなかったのかもしれない。

その後、彼らは墟を後にした。
振り返った時、消えゆく炎とともに、小さな子どもは手を振っていた。
彼らは提案された思いを抱きしめながら、ここに手を掛ける勇気を遍く腹に秘めたまま、幾度も振り返ることはなかった。
墟が彼らを受け入れていたのかもしれないと、いつかの思いが胸を締め付けていた。

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