「墓標の島」

夏の終わり、私たちは友人たちと共に島へ旅行に出かけた。
リーダー格の佐藤が、「この島は神秘的な伝説があるんだ」と言い出した。
噂によると、島の奥には「命を失った者たち」と呼ばれる霊がいるという。
興味本位である私たちは、薄暗くなるまで島を探検することに決めた。

何時間か歩き続けるうちに、私たちは森の奥深くへと迷い込み、うっそうとした木々が立ち並ぶ場所にたどり着いた。
木々の間から、カサカサという音が聞こえてきた。
私たちが互いに顔を見合わせると、突然、風が吹き抜け、どこからか whispered voice(囁く声)が聞こえた。
「ここにある…ここにいる…」

不安に思いながらも、佐藤が前を歩き出すと、私たちも後を追った。
しばらくして、一つの石造りの神社に到着した。
その神社は、古びていて、まるで長い間誰も訪れていないようだった。
神社の中には、不気味な彫刻が施された石碑があった。
私がその石碑に近づくと、不意に胸が苦しくなり、ぞくりとした感覚が背筋を走った。

仲間の一人、奈美が「ここにいるのが、失われた命たちの祈りなんだ」と言った。
その言葉が響くと、周囲が急に静まり返った。
私は何か異様なものを感じ始めた。
霧が立ち込めてきたかのように、視界が次第に狭まっていく。

「帰ろう」と言うと、佐藤は静かに頷いたが、他の友人たちはまだ神社の周囲を探索していた。
「こんなところにいたら、何か良くないことが起きそうだ」と思った私の直感を無視するように、彼らは興味津々で周りを見回していた。

その時、突然、石碑の前に立っていたのが奈美だった。
彼女の表情は、いつもと違っていた。
無表情で、じっと先を見据えていた。
「奈美、大丈夫?」と声をかけると、彼女はゆっくりとこちらを振り返った。
その表情は崩れず、ただ「命が…」と呟く。
彼女の周りの空気が重くなったように感じた。

その瞬間、地面が揺れ、周囲の木々がざわめき始めた。
「逃げろ!」と叫ぶ佐藤に続き、私たちは必死で神社を離れ、森を抜け出そうとした。
しかし、どうしても方向を見失ってしまった。
迷路のような森を彷徨う中、周囲の声が次第に強くなってきた。
「助けて…助けて…」

振り返ると、奈美が神社の方向に立っていた。
彼女の周りを、小さな影が取り囲んでいる。
失われた命の霊だと感じる。
彼女は私たちを振り返らず、ただ彼らの中に佇んでいた。
恐怖で声を失った私は、他の仲間たちを引っ張り、なんとか道を見つけようとしたが、どこかに迷い込んでしまった。

「奈美を置いて行けない!」と叫ぶ佐藤。
必死で呼びかけるも、奈美の意識は完全に失われていた。
私たちの声は届かず、その影たちに取り囲まれ、奈美はゆっくりと彼らの中へと吸収されていく。
彼女の姿が霧の中に消えていくのを、私はただ見つめることしかできなかった。

ようやく森を抜け、浜辺に出ると、反対側の海が目に入った。
しかし、そこにはもう仲間たちではなく、私だけが取り残されていた。
恐怖と絶望に心を貫かれ、涙が止まらなかった。
あの神社が、「命」の失われる場所だったということを思い知らされた私は、二度とこの島には戻れないことを確信した。

その思いが、今も私の心の中に響いている。
私たちは、あの失われた命を見捨ててしまったのだ。
あの夜、奈美は「命を失った者たち」と共に、永遠にこの島に取り残されたのだと思う。

タイトルとURLをコピーしました