ある繁華街の真ん中に、ひっそりと佇む神社があった。
その神社は、昔から神様が守っていると信じられていたが、近年では人々の信仰は薄れ、訪れる者も少なくなっていた。
しかし、この神社には謎の現象が起こることで知られていた。
それは神の界と人の界が交錯する場所であり、境界が限りなく曖昧になるのだという。
ある日、大学生の健一は友人とともに遅くまで遊び、帰る途中でその神社を通りかかった。
その薄暗い境内に、ふと引き寄せられるように足を踏み入れた。
神社の入り口には赤い鳥居が立ち、周囲は静寂に包まれている。
彼はその異様な雰囲気に一瞬ためらったが、好奇心が勝った。
健一は神社の奥へ進んでいくと、中央には小さな祠があった。
周囲の空気が一変し、何か異質なものを感じ取った。
ふと、祠の中に光る物体を見つけた。
それは古びた鏡だった。
健一はその鏡を手に取ってみると、鏡の中に自分の顔が映るだけでなく、後ろにある景色も映っていた。
しかし、よく見ると、その景色は彼の知っている神社ではなく、全く異なる風景だった。
突然、鏡の中の光景が揺らぎ、そこに映るものが変わっていく。
神社の境内に知らない人物が現れ、彼に向かって微笑んだ。
驚いた健一は慌てて鏡を放り投げたが、その瞬間、彼の周りの空気が変わり、何かが彼を引き込もうとしているのを感じた。
次の瞬間、健一は気がつくと鏡の中に引き込まれていた。
彼は神様の界、すなわち異次元の空間に立っていた。
そこには幻想的な風景が広がり、色とりどりの光が踊っていた。
しかし、その美しさとは裏腹に、健一の心には恐怖が広がっていった。
「ここはあなたがたの知らない神の界。私が導こう。」声が背後から響いた。
振り返った健一の目に映ったのは、神々しい姿をした美しい女性だった。
彼女は微笑みながらも、その瞳には不気味な光を宿していた。
「あなたは、何を求めてここに来たのか?」その声は優しいが、どこか冷たい響きを持っていた。
健一は心の中に浮かんだ不安を飲み込むように答えた。
「私はただ、好奇心から…」
「好奇心は恐れを超える素晴らしい感情だ。しかし、界には限界があり、あなたのような者は戻ることができないかもしれない。」その言葉に、健一の心は一瞬にして不安に包まれた。
周囲の景色がゆらぎ、彼が来た神社が薄らいでいくのを感じた。
「証明してみせよ。あなたが人界に帰りたいのなら、真実を理解せねばならない。」女性の言葉は、彼に強い圧力をかけた。
彼の心は焦りで満ちていたが、そのときふと、自分が持っていたはずの「信じる力」を思い出した。
「私は、怖れには屈しない!」彼は自分を鼓舞して叫んだ。
すると、その一瞬に神の界の景色が変化した。
美しい女性の姿も一瞬で消え、周囲には無数の光の粒子が舞い降りた。
それを見た健一は、ここに留まることは自分の選択であると気づいた。
「私は戻る。真実は私の力の中にある!」彼は叫び、自分の意志を強く持った。
その瞬間、周囲の空気が変わり、彼は再び光の中に包まれた。
次に目を開けたとき、彼は神社の鳥居の前に立っていた。
手にはあの鏡が戻ってきていた。
周囲は静寂だが、彼の心には新たな強さが宿っているのを感じていた。
あの神の界は、恐れるべきものではなく、真実に向き合うための試練だったのかもしれない、と健一は思った。
それ以来、彼は神社を訪れることはあっても決してあの鏡には近づかなかった。
神様への信仰は失われても、彼の中には新たに見出した真実が残り、好奇心は恐れを超える力になると信じて生きていくのだった。