山は孤独で、不気味な静けさに包まれていた。
人々はその山に近づくことを避け、特に夜になると誰もがその影を恐れていた。
しかし、悪を心に宿す健太は、その山に挑戦することを決意した。
彼は過去のトラウマが原因で、他人を傷つけることでしか自己を保てない男だった。
人を侮辱し、恐怖に陥れることが彼にとっての快楽であり、己の心の闇を隠すための手段だった。
ある夜、月光が山を照らし出している中、健太は懐中電灯を手に、山の中へと歩を進めた。
「ここで何か起こるはずだ」と心の中でつぶやきながら。
彼はその山に、昔からある恐ろしい噂を聞いていた。
そこには「堕ちる者」を引き寄せる存在がいるという。
山の頂上で出会った者は、自身の欲望のままに堕ちてしまうのだ。
健太はその存在と対峙することで、自らの力を証明したいと思っていた。
山道を降りるにつれ、彼の心の中で不安と興奮が入り混じり、異様な感覚が胸を締め付ける。
突然、懐中電灯の光が鈍り、周囲は暗闇に包まれた。
健太は一瞬立ち止まり、心臓が高鳴った。
はっきりしない音が耳に届く。
何かが近づいている。
視線を投げかけると、山の中から人影が現れた。
それは、自らの欲望に堕ちた者たちの霊だった。
彼らは無表情で、まるで生者を飲み込むかのように迫ってくる。
健太の心の中の悪が刺激され、彼は恐怖を快楽に変えようとした。
彼は笑いながら霊を挑発し、「どうした?怯えたのか?」と叫ぶ。
霊たちは無言のまま、彼に近づいてくる。
健太は恐怖から逃げようと後退り、しかし背後には何もない。
そこは崖だった。
彼の身体はバランスを崩し、崖下へと滑り落ちていく。
絶望感が彼を包み込み、瞬時に目の前が暗転した。
落下する間、彼の心には恐れよりも快楽が充満していた。
「これが堕ちるということなのか…?」と、彼は心の奥底で一瞬思ったが、次の瞬間には無意識へと意識が吸い込まれていった。
意識が戻った時、健太は薄暗い空間に立っていた。
そこには彼が想像していたよりも遥かに深い闇が広がり、悪に満ち溢れた空間が広がっていた。
周囲には、かつてこの山に挑んだ者たちの姿があった。
彼たちの目は虚ろで、絶望に満ちていた。
「ようこそ、堕ちた者よ」と低い声が響く。
健太は振り向くと、山の悪しき存在が姿を現していた。
彼は恐怖を感じる暇もなく、「私はお前を選んだ。悪を抱えし者を、深い闇で迎え入れる」と告げられた。
この言葉は彼の心の奥深くに響き、彼の中の悪がさらに増幅されていくのを感じる。
健太は自分が完全に堕ちてしまったことを悟った。
彼は自らの願望が現実となったその場所で、永遠にさ迷い続けることが運命であると理解した。
その瞬間、かつての快楽と恐怖は無意味なものになり、ただ暗闇の中で自身の欲望に飲み込まれていくことだけが残された。
健太の心はますます深い闇へと没入し、二度と這い上がれない堕落した者となったのだ。
この山の悪しき存在は、今も新たな犠牲者を待ち続けている。
健太のような、心に悪を宿す者を…。